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明日から夏休みだと言うのに、気分が晴れない。
隼とまともに話さなくなってから三ヶ月程が過ぎようとしていた。
隼は一応学校には来ているが、出席を取るとすぐどこかに消える。
時々見る隼は、いつもあの女と一緒にいた。
隼が特定の女と三ヶ月も続いていると、周りもみんな驚いていた。
「あちーーー」
コンビニで買ったアイスを食べながら、土手を三人で歩く。
天を仰ぐ雷の金髪が太陽の光を反射させていた。
「明日から夏休み〜!って事でさ、今年も海の家行っちゃう!?」
「いいねいいねー!!!」
「琉は?どする?」
高校一年の夏から、俺らは4人で夏休み二週間位を使って尚の叔母が経営する海の家に泊まり込みでバイトへと行っていた。
バイトをする上での約束事は、絶対に喧嘩をしない事。
初めは守れるのか不安だったが、一年目も二年目も問題は起こさなかった。
二週間働きながら海で遊んで、帰ってきてそのバイト代で残りの休みを遊んで過ごす。
それが俺らの夏休みの流れだった。
しかし、今年は隼は参加しないだろう。
「ん、行く」
悩んだ末、隼が来ないならまあいいかと尚に返答する。
隼が来るとしたらどこか気まずい雰囲気になりそうだけど、三人ならこれまでと変わらず過ごせるだろう。
「いぇーい!隼は無理かなあ」
「あいつは多分彼女と過ごすんじゃねえか?」
「確かに、でも一応聞いてみようかなあ」
「いいよ。あいつ来たら気まずくなりそうだし…今年は三人で良いだろ」
ボンヤリと言う尚に、すかさず否定的な言葉を投げかける。
二人は気まずそうにしながらも、話を違う話題へと切り替えた。
二人の会話を聞きながら、ただ家への帰路を歩く。
つまんねぇ日常だな。
ベッドに寝転んで、いつの間にかオレンジ色になった空を窓越しに見る。
女が出来たってだけでこんなにも距離が開くもんかな普通。
今までがおかしかったのかな。
時々見るアイツには度々新しい傷が出来ていた。
という事は、喧嘩も普通にしているんだろう。
俺も、雷も尚も最近じゃあ絡まれる事も無く喧嘩のない平和な日常を過ごしているけれど。
これが、普通のやつの日常なのかと思うとどこか退屈に感じられてしまう。
擦れた道から戻ったのは自分なのに。
視界を邪魔する蜂蜜色の髪の毛が、夕日に照らされてよりオレンジ味をまして見える。
ーーーお前その髪色似合うな!肌白いから映えるのかなーーー
高校の入学式、開口一番に言われた隼からの言葉が蘇る。
肌白いとか、男に言って喜ばれる事でもねぇのに。
あいつは悪気無く言うんだよな。
隼の笑った顔、最後に見たのいつだっけ。
その日の夜は、やけに懐かしい夢を見た。
中学時代四人で馬鹿やって、毎日笑ってた頃。
何も考えずに毎日を過ごして、死ぬほど楽しかった日々。
目が覚めた時どうしようもない寂しさに頭を抱えた。
海へと出発の日、待ち合わせの駅に着いた瞬間帰ってしまおうかと思った。
荷物を抱えて帽子を被っているそいつも、同じような感情なんだろうか。
目を見開いて一旦俺を見てから、構内へと入って行った。
「おっはよ〜!」
「尚っ!隼は呼ぶなってあれほど…」
「はいはい。言われたよ?言われたけどさ、今年が高校最後の夏なんだよ?高校卒業したら、こんな風に過ごせる事も無いのに。琉も隼もそれで後悔しない?」
腕組みをしながら咎められて、口を噤む。
尚は呆れながら隼の後を追って構内へと入って行った。
とん、と肩を叩かれて、雷が隣に立っている事に気づいた。
「尚もあれでさ、結構悩んでたんだぜ。そろそろ仲直りすれば?」
「…別に……喧嘩してる訳じゃ」
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