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「だとしても。俺もこんな気まずい中卒業とか嫌だかんな」
……それはそうだけど。
三人の背中を追って、俺も各駅列車に飛び乗った。
こうなったらもう行くしかないんだから。
とは思ったけれど、移動中も着替え中も全くと言っていいほどに隼と目が合わない。
そんな状況なのに毎年の流れで俺と隼そして、雷と尚の二手に分かれてバイトをする事になってしまった。
海パンを履いてトウモロコシを焼きながら、隣にいる無口な隼に気まずさを覚えた。
こいつの隣にいて気まずいと思う日が来るとは思わなかった。
チラリと見た隼は俺の事なんて目もくれず、淡々と焼きそばを炒めていた。
お前んな真剣な顔して仕事出来たのかよ。
「すみませーん。店員さんたちカッコイイですね〜」
「え、やばーい。めっちゃイケメン」
キャピキャピした声がしてそちらへと向くと5人組のギャルが俺と隼を交互に見ていた。
「あ、すんません仕事中なんで…」
微笑みながら返答する隼は、やはり接客業に向いているのかもしれない。
「えー。じゃケー番教えて」
「私は君がいいな〜」
無視を決め込んでいた俺に話が振られて、ついそちらを向いてしまう。
「えっ目合った可愛い〜♡」
大学生位だろうか。
ハイトーンの長い髪を派手に巻いて、黒の三角ビキニを着ている。
可愛いという言葉に舌打ちをした瞬間、先程まで隣に立っていた隼が俺の前に立ちはだかった。
俺よりもデカい隼の体の影にすっぽりと隠れてしまう。
「ごめん俺ら彼女居るから」
「なーんだ。残念」「え、でも一途なのかわい〜」
「また来るね〜」
「またね〜」
隼の言葉で、ギャル集団は思ったより素直に店を立ち去って行った。
隼は小さく息を吐いてから、自分の持ち場へと戻って行く。
反射的に一歩後ろに下がっていた俺も、焼き場へと戻った。
それにしても、隼が逆ナンを断る所なんて初めて見た。
いつもだったらへらへらしながら「休憩まで待ってて〜」とかって言うくせに。
そんなに今の彼女が大事かよ。
あんな女、本命じゃないくせに。
「隼!琉!そろそろ交代していいよ!」
尚の叔母さん、奈美さんの声に俺と隼が同時に振り返る。
「「うす」」
隼は素早く付けていたエプロンを取ると、さっさと浜辺へと行ってしまった。
すれ違いで入ってきた尚と雷が気まずそうに俺を見る。
「大丈夫だった?」
「あー、うん。俺はちょっと休憩するわ」
海の家のキッチンに入り込み、冷蔵庫に入れてあったジンジャーエールを取り出す。
キンキンに冷えた飲み物を飲みながら傍らにある丸椅子へと腰を下ろした。
「あんた隼と何かあったの?」
ビクッと肩を揺らしながら振り返った先には、呆れた様に腰に手を当てている奈美さんの姿があった。
茶金の短い髪の毛をフワフワに巻いて、前髪をちょんまげにしている奈美さんは、見るからに元気姉さん!と言う感じの人だ。
確か、歳は28だったか。
そんな歳には見えないほどのスタイルとパワフルさだ。
「どー…なんすかね…。俺もよく分かんなくて」
「なんだそれ。自分らの事だろーが」
「1回言い争いみたいにはなったんすけど、その後普通に話して…でも、あいつに女出来て……そっからはほとんど話してないです」
「お前らが言い争い?原因は」
「あいつに女遊びやめろって言っちゃって、お前に関係ねぇだろって言われて俺が逆ギレしました」
素直に答える俺に、奈美さんが何故か腹を抱えて笑い出す。
「琉〜、突然どうしたんだよ。あいつの女癖の悪さなんて今に始まった事じゃないだろ?」
「そりゃそうなんすけど…。あいつ、本命居るらしくて。なら、止めろよ。みたいな」
「本命ねぇ」
奈美さんは瓶に入ったコーラをクイッと飲みながら、意味深に俺の言葉を繰り返す。
「で、あいつは本命と向き合う覚悟は出来たのか?」
「覚悟?…ってか奈美さん知ってたんすか?」
俺と同様丸椅子に腰を下ろす奈美さんに食い気味に問いかける。
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