変化

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あまりのしつこさに怒りが込み上げてくるが、奈美さんの店を背負ってる手前下手な事は出来ない。 「離せ。歩きにくい」 「生意気なとこも可愛い」 俺の言葉を何も受け取ろうとしないアヤナに、小さくため息を吐く。 アヤナの存在を無視しようと決め込んで、歩みを早くするけれどアヤナが引くことは無かった。 暑苦しい。 邪魔くせえ。 ほんとを言ったら突き飛ばして立ち去りたい。 …けど、そんな事したら奈美さんに迷惑がかかるかも…。 そう思ったら何も行動出来なかった。 「ねえね、なーまーえ、教えーーキャッ」 突然左腕にあった重みが消えて、歩みを止めてそちらを振り向く。 「何してんの」 「あちゃー。ボディーガードくん」 「は?」 俺を掴んでいた腕を思い切り握られ、やばいという顔をしているアヤナ。 そして、いつになく怒った様子の隼の姿が。 「ってか、腕痛いって!」 「こいつ嫌がってんだから話し掛けんな」 「はいはいはいはい!分かったから!手!離して!」 やっと隼の手がアヤナから離れると、アヤナの腕にはくっきりと隼の手跡が付いていた。 「ったくもー!そんな大事ならずっと傍に居てあげればいいでしょ!」 べーっ!と舌を出してから立ち去るアヤナの姿に、ほっと胸を撫で下ろす。 「…悪ぃ、助かった」 「別に。つーか女相手に何してんの」 「いや奈美さんの店背負ってる手前、手荒な事出来ねえし」 「……馬鹿じゃん」 ポツリと呟いて、隼は再びどこかへと行ってしまった。 結局その後は海で遊ぶ気にもなれなくて、仕事とキッチンとの往復を繰り返した。 尚と雷と三人で話す隼の姿をキッチンの奥から見守りながら、その空間がやけに遠く感じた。 楽しそうに話してたな…。 真っ暗の部屋でタオルケットを掛けたまま天井を見あげた。 尚と雷の布団からは既に定期的な寝息が聞こえてきていた。 あいつ、風呂も自分だけ別に入るし… 四人で行動すること…て言うより俺と行動する事を避けてるみたいだった。 ……そんな嫌われるような事しちまったんだっけ。 腕で目元を隠しながら考えてみるけど、そこまでの事をした記憶は無かった。 隼が女遊びについて言及された事に腹を立てているのなら別だけど。 その時誰かが部屋から出ていく音が聞こえて、ゆっくりと目元に当てていた腕を離した。 上半身を起き上がらせて4枚並んで敷いてある布団を見やると、どうやら出て行ったのは隼だったようだ。 やっぱりな、と思いながら再び布団に体を沈める。 昼間あんだけ外にいて疲れているはずなのに、まったく眠気が襲ってこない。 昼間奈美さんに言われた言葉が、頭の中でグルグル回っている。 ……壊したくないもの、か… あいつが沢山考えて出したのかもしれない答えを、俺は頭ごなしに全否定してしまった。 あいつが何も話さないのも問題だけど。 ちゃんと、一回謝った方がいいのかな。 寝室を後にして、隼の姿を探す。 廊下にも、どこにも、建物の中に隼の姿は無かった。 もしかして、女の所でも行ったのか…? 隼にあられもない疑いをかけ始めた瞬間、砂浜に隼の姿を見つけた。 月明かりの中、流木に腰を下ろす後ろ姿はどこか大人びて見えた。 隼へと歩み寄っていくと、音で気がついたのかすぐにこちらへと振り返って来た。 ビクリと反射的に肩が揺れてしまう。 「……お前も寝れねえの」 「ん。」 意外にも普通に話しかけられて、思わずこちらもいつも通り返答してしまう。 だめだ。俺は、謝りに来たんだ。 グッと拳を握りしめて、再び海を見つめている隼の目の前に移動した。 「隼、あん時はごめん。……お前の事、なんも知らねえで勝手な事言った」 「…あん時って?」 俺と視線を合わせないまま問い掛けてくる隼に、グッと拳に力を込める。 「女遊びやめろとか…ヤリチンとか……。言いすぎた」 「別に間違いじゃねえし、気にしてねえよ」
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