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隼の言葉にハッとして、握ったままにしていた手を慌てて離す。
「俺の事…顔も見たくないくらいに嫌ってるくせに、なんで守るような事すんの」
「お前に関係ねえじゃん」
「いやあるだろ。つーか当事者だっつの」
ぶすくれた様子の隼に、ため息混じりに言い返す。
「お前意味わかんねえよ。俺の事守ってみたり、顔も見たくないって言って突き放してみたり…何がしてえの?」
「…っちの、セリフだよ」
俯きがちに発せられた隼の声は、波音にかき消されて何も聞き取れなかった。
「なに?」
「こっちのセリフだよ!」
大声を上げながらこちらを向く隼の勢いに気圧される。
苦しげに眉を顰める隼の顔に、胸に痛みが走った。
「女といるとこみて不機嫌そうにしてきたり、女遊びやめろだの本命落とせだの言ってくるし…!!しまいにはキス避けようともしねぇ!!お前何考えてんだよ!!!」
「お前何が言いてえの」
なんの話しをしているのか分からなくなってきて、思わず首を傾げた。
チッと舌打ちをして、隼のでかい手が俺の両手首を掴む。
目を見開く隙も与えないまま岩に体を抑え込まれ、唇を塞がれる。
やっと目を見開いた時には、視界の全てを隼に支配されていた。
「待ってっーーんんっ!!!」
角度を変えて何度もキスをされて、だんだん頭がボンヤリしていく。
両手を離され、その場に崩れ落ちた。
荒れた息を整えながら、砂浜をぼんやり見つめる。
「……も、ほんと…俺に近づくな」
何も本音を言わないまま、すぐ様立ち去ろうとする隼の手を力強く掴む。
このままなんて、もう嫌だ。
「お前…ハアッハッ……ヤり逃げ、すんなよ」
「ヤッ!!!??…それは語弊あるだろ!」
「変わんねぇよ!無理やりキスぶちかまして、もう近寄んな!?意味わかんねぇよ!」
「……っ!!だから…」
バッと腕を振りほどかれて、座ったまま隼の顔を見あげた。
「好きなんだよ!お前の事が!そうゆう対象で!!」
「で?」
「はぁ!?」
「そんでなんで俺の顔見たくないに繋がるわけ」
あっけらかんと答えると、隼も俺の目の前に崩れ落ちた。
不思議と、キスをされても好きだと言われても不快に感じることは無かった。
「いや…気持ち悪ぃだろ、こんなん」
「なんで俺の気持ち勝手に決めんの…」
「伝える気なんて無かったんだよ…一生」
「で、俺との縁切ろうとしてたんだろ?」
気まずそうに目を逸らされて、居てもたってもいられずその顔面を思い切り拳で殴りつけた。
砂浜に吹き飛んだ隼の体に馬乗りになって、胸ぐらを掴みあげた。
「なあ、隼。人の気持ちってな、話さねぇと分かんねぇもんらしいぞ」
「は?」
「俺は…好きとか……そうゆうのはよく分かんねぇけど…。お前の笑顔見らんなくなんのは嫌だし…一生話せないのも多分耐えらんねぇ」
突然恥ずかしくなってきて、顔に熱が籠っていく。
夕日の色に隠れて、隼にはバレないよう全力で祈った。
「だから、縁切ろうとなんて…すんなよ」
「俺はもう…お前と友達では居られねぇ」
「お前と一緒に居られるなら、もう…関係なんてどうでもいい」
話をしなくなって、距離が離れて、こいつの存在の大きさに気づいた。
いつだって隣には隼がいて、馬鹿みたいに笑ってて…
そんな日々がどれほど幸せだったのか思い知らされた。
こいつが俺の隣で笑っていてくれるなら、どんな関係性でも良いと思ってしまった。
「……お前の本命って…俺のことだったの?」
真っ直ぐに見つめる俺の視線から、隼の視線が逃げた。
それが答えだと思い、掴んでいた胸ぐらに顔を埋めた。
何も言えないまま、ただ、嬉しいと思ってしまった。
隼の特別が自分だったということが、どうしようも無く嬉しいと、思ってしまった。
「んな事すると…期待すんぞ」
優しく言いながら、上半身を起こし俺の両肩を掴む隼の瞳をジッと見つめる。
突然雄の顔をし始める隼に、ドキリと心臓が跳ねた。
口を噤んだまま隼を見つめていると、肩に置いてあった手が両頬を包む。
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