変化

7/13
48人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
隼の言葉にハッとして、握ったままにしていた手を慌てて離す。 「俺の事…顔も見たくないくらいに嫌ってるくせに、なんで守るような事すんの」 「お前に関係ねえじゃん」 「いやあるだろ。つーか当事者だっつの」 ぶすくれた様子の隼に、ため息混じりに言い返す。 「お前意味わかんねえよ。俺の事守ってみたり、顔も見たくないって言って突き放してみたり…何がしてえの?」 「…っちの、セリフだよ」 俯きがちに発せられた隼の声は、波音にかき消されて何も聞き取れなかった。 「なに?」 「こっちのセリフだよ!」 大声を上げながらこちらを向く隼の勢いに気圧される。 苦しげに眉を顰める隼の顔に、胸に痛みが走った。 「女といるとこみて不機嫌そうにしてきたり、女遊びやめろだの本命落とせだの言ってくるし…!!しまいにはキス避けようともしねぇ!!お前何考えてんだよ!!!」 「お前何が言いてえの」 なんの話しをしているのか分からなくなってきて、思わず首を傾げた。 チッと舌打ちをして、隼のでかい手が俺の両手首を掴む。 目を見開く隙も与えないまま岩に体を抑え込まれ、唇を塞がれる。 やっと目を見開いた時には、視界の全てを隼に支配されていた。 「待ってっーーんんっ!!!」 角度を変えて何度もキスをされて、だんだん頭がボンヤリしていく。 両手を離され、その場に崩れ落ちた。 荒れた息を整えながら、砂浜をぼんやり見つめる。 「……も、ほんと…俺に近づくな」 何も本音を言わないまま、すぐ様立ち去ろうとする隼の手を力強く掴む。 このままなんて、もう嫌だ。 「お前…ハアッハッ……ヤり逃げ、すんなよ」 「ヤッ!!!??…それは語弊あるだろ!」 「変わんねぇよ!無理やりキスぶちかまして、もう近寄んな!?意味わかんねぇよ!」 「……っ!!だから…」 バッと腕を振りほどかれて、座ったまま隼の顔を見あげた。 「好きなんだよ!お前の事が!そうゆう対象で!!」 「で?」 「はぁ!?」 「そんでなんで俺の顔見たくないに繋がるわけ」 あっけらかんと答えると、隼も俺の目の前に崩れ落ちた。 不思議と、キスをされても好きだと言われても不快に感じることは無かった。 「いや…気持ち悪ぃだろ、こんなん」 「なんで俺の気持ち勝手に決めんの…」 「伝える気なんて無かったんだよ…一生」 「で、俺との縁切ろうとしてたんだろ?」 気まずそうに目を逸らされて、居てもたってもいられずその顔面を思い切り拳で殴りつけた。 砂浜に吹き飛んだ隼の体に馬乗りになって、胸ぐらを掴みあげた。 「なあ、隼。人の気持ちってな、話さねぇと分かんねぇもんらしいぞ」 「は?」 「俺は…好きとか……そうゆうのはよく分かんねぇけど…。お前の笑顔見らんなくなんのは嫌だし…一生話せないのも多分耐えらんねぇ」 突然恥ずかしくなってきて、顔に熱が籠っていく。 夕日の色に隠れて、隼にはバレないよう全力で祈った。 「だから、縁切ろうとなんて…すんなよ」 「俺はもう…お前と友達では居られねぇ」 「お前と一緒に居られるなら、もう…関係なんてどうでもいい」 話をしなくなって、距離が離れて、こいつの存在の大きさに気づいた。 いつだって隣には隼がいて、馬鹿みたいに笑ってて… そんな日々がどれほど幸せだったのか思い知らされた。 こいつが俺の隣で笑っていてくれるなら、どんな関係性でも良いと思ってしまった。 「……お前の本命って…俺のことだったの?」 真っ直ぐに見つめる俺の視線から、隼の視線が逃げた。 それが答えだと思い、掴んでいた胸ぐらに顔を埋めた。 何も言えないまま、ただ、嬉しいと思ってしまった。 隼の特別が自分だったということが、どうしようも無く嬉しいと、思ってしまった。 「んな事すると…期待すんぞ」 優しく言いながら、上半身を起こし俺の両肩を掴む隼の瞳をジッと見つめる。 突然雄の顔をし始める隼に、ドキリと心臓が跳ねた。 口を噤んだまま隼を見つめていると、肩に置いてあった手が両頬を包む。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!