変化

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口元をタオルで隠しながら、視線を横に逃がす。 「あーーーーもう!!そーゆう顔すんなって!」 「んな事言われても分かんねぇよ!」 「おいうっせーぞ!廊下で騒ぐな!」 海の家のすぐ近く、俺らが泊まっている民宿は奈美さんが経営している所だ。 もちろん、怒りに任せて扉を開いた正体は奈美さんだった。 「「すいませーん」」 「あれ、つーかお前らやっと仲直りしたの」 「おかげさまで」 ペコりと頭を下げる俺に、奈美さんが怪しい笑みを浮かべる。 「ふーーん?なあ、隼」 「え、は…はい」 「本命はゲット出来たか?」 「「はい!?」」 腕組みをしながら得意げに問い掛ける奈美さんに、俺も隼も目を丸くした。 「いや…微妙……です」 「んだよーこんないい男モタモタしてたら他のやつに取られちまうぞ〜。ってな?」 奈美さんの視線を痛い程感じて、ビクリと肩を跳ねさせる。 「ほ、ほんとそうっすよね!!それじゃ!!」 隼の背中を無理やり押して、足早に大浴場へと向かう。 隼も多少気まずさを感じていたのか、素直に大浴場へと入ってくれる。 「え、なに奈美さんどこまで知ってんの」 「知らねぇよ!俺何も言ってねえし」 青ざめながら問い掛ける俺に、隼も焦った様子で答えた。 「そういや昨日、女の勘とか言ってたな…」 「いや怖っ!!!」 「ま、いっか。風呂入ろうぜ。体ベタベタする」 着ていたタンクトップを脱ぎながら言うと、隼が気まずそうに視線を逸らせた。 「お…お前にそうゆう反応されると俺も気まずいんだけど」 「仕方ねえだろ。何ヶ月してねえと思ってんだよ」 「……抜いてもねぇの?」 恐る恐る問い掛けると、沈黙を返される。 「え、と…俺おかずに…したり、とか?」 再び沈黙を返されて、物凄い後悔に襲われた。 「いやごめん今の質問は間違えた」 「……これ以上オカズにされたく無かったら、先入れ」 しゃがみこみながら言う隼に、小さくため息を吐く。 まあオカズにされてたのは予想外だったけど、こいつが他の女オカズにして抜いてる方が不快かも。 「いーよ、別に。減るもんじゃねえし」 「そうゆう問題じゃねえだろ」 「じゃあ何、これから二週間俺の事避けて風呂入るつもりかよ。無理だろそんなん」 「…どーにかする」 「なー、隼〜」 隼の目の前にしゃがみ、顔を覗き込む。 「風呂だぞ風呂。別にやましい場所に行く訳じゃないんだから」 「はー」 わざとらしく息を吐いて、俺に視線を向けないまま反対を向いて立ち上がる。 「分かった。お前の事をなるべく視界に入れないように入る。お前も入ってくんなよ!」 「えぇ……」 それじゃあ仲直りする前と余り変わらないじゃないか。 そんな事も思ったが、隼が最大限譲歩してくれた結果なのだと自分に言い聞かせた。 言葉の通り俺に背中を向けながら湯船に浸かる隼を見つめる。 綺麗に筋肉が付いていて、いい感じに焼けた肌。 髪を1つに纏めたゴムからは、毛の束が何本か落ちていた。 あいつ、こんな色っぽい体してたっけ。 ふとあの日教室で見た情事後の隼の姿を思い出してしまい、大きな音を立てながら湯船を出た。 「さ、先上がる!」 「おー」 服を着ながらも隼の姿が脳裏から離れなくて、手荒に髪の毛を拭いて邪念を払った。 今更だけど、俺、あいつとキスしたのか……。 自分の唇をそっと触れる。 つか、俺からキスしたんだよな…。 俺はあいつの事好きなのかな。 正直、恋愛というものはよく分からない。 好きとか、愛してるとか、どんな感情なんだろう。 ガラッと浴室へと続く扉が開かれて、慌てて唇に当てていた手を下ろす。 反射的にそちらを振り返ると、素っ裸の隼が立っていた。 なんだか気まずくなって視線を逸らして背中を向ける。 「な、なんだよその反応」 「別に…」
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