変化

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そのまま頭を撫でられて、俺もベンチから立ち上がる。 隼の指に自分の指を絡めて少し俯いた。 部屋に戻らないといけないというのに、どうしても離れがたかった。 「琉?」 でも、そんな気持ちを悟られたくは無くて絡めていた指の力を抜いた。 「……行くか」 「…海辺散歩してかね?」 俺の気持ちが伝わってしまったのかと焦ったが、素直に頷いた。 ビーサンを履いたまま、砂浜へと向かう。 月明かりが水面に反射してキラキラと光っていた。 まさか、自分と隼がこんな関係になるなんて思ってもいなかった。 俺より10センチほど高い隼を見上げつつ、歩きにくい砂浜を踏み締めていく。 ずっとモヤモヤしていた自分の感情の答えが出て、言い表せない程に清々しい気持ちだった。 「なあ隼」 「んー?」 「…喧嘩、もう止めろよ」 「んー」 いつの間にか乾いた髪が、潮風に煽られる。 「お前が一人で怪我すんの、やだ」 「でもな…」 「俺なら大丈夫だって。それに、お前も居るし」 「そうゆうことじゃなくてさ」 「二人で喧嘩しなくて済む方法考えようぜ」 立ち止まって隼を見ると、俯きがちに何かを考え込んでいる様子だった。 片っぽの手をポケットに突っ込んで、ガシガシと頭を乱雑にかき始める。 「んーーー。分かった」 「言ったな?約束だかんな?」 人差し指で指さしながら顔を覗き込むと、呆れたみたいに笑った。 「分かったって」 よしっと満足気に微笑んで、再び夜の砂浜を歩き始める。 ビーサンに砂が入ってきて、せっかく風呂に入ったのに足がまた汚れてる。 それなのにこんなに気分が高揚しているのは、こいつのせいだろうか。 「つーかさ、琉」 「なに」 「俺らは付き合ったって事で良いんだよな?」 付き合う、と言う単語がやけに恥ずかしくて俯いて自分のビーサンを見つめる。 「んー」 「え!何その微妙な反応!!」 慌てて隼が俺の顔を覗き込んできた。 反対方向に顔を反らせて、隼の視線から逃げる。 「ねー!なに、え、そうゆう流れじゃなかった??」 ガシッと腕を掴まれて、渋々足を止めた。 「琉。嫌なら嫌って言って」 「ちが…くて」 腕を引っ張られ、隼と向き合う形を取らされる。 月明かりに照らされた隼の瞳が俺の姿を写し出していた。 「お前と一緒に居たいし、離れたくない。…でも、俺はこれが恋愛感情なのかどうか……まだ分かんねぇ」 「琉はさ、俺とキスしたいって思う?」 「は!?」 隼の唇を一目見て、すぐに横に逸らす。 「んなの…分かんねぇよ……」 「でも、したそうな顔してる」 「おまっーー」 思い切り掴まれた手を引くけれど、隼の手は離れなかった。 顔が赤くなっているのが、鏡を見なくたってよく分かる。 「例えば今目の前にいるのが雷とか、尚とかでも…琉はそんな顔すんの?」 「…自分の顔なんて分かんねぇよ」 反対の手の甲を当てて、顔を隠す。 これ以上隼に今の顔を見られたくなかった。 「そ?…多分今の俺と同じような顔してるよ」 チラリと見た隼の顔は、やけに熱っぽくて… 俺の頬に今まで以上の熱が昇った。 飢えた獣のような顔をしている。 もし自分もこんな顔をしているのだとしたら、うじうじしているのがアホらしく思える。 「…嘘」 「ホント」 腕を引かれて、至近距離で見つめられる。 頬に手を当てられて、隼から目が逸らせなくなった。 「もう認めろよ」 「……やだ、恥ずかしい」 隼の肩に手を当てて、胸元に埋めて顔を隠した。 「んな目で見んな…」 パッと手を離され、それを自分の頬に引き寄せる。 こんなにも熱い顔を見られたくなかった。
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