夏の終わり

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「とうとう今日で最後か〜」 朝飯を食いながら尚が上に伸びをし始める。 今日は海の家のバイト最終日。 今日泊まって、明日の夕方には家に帰る。 毎年この日にはなんだか寂しい気持ちになっていた。 「だな〜」 「でも今日はあれだろ!?花火!!」 隼と雷がそれぞれに返答をして、四人揃って笑みを浮かべる。 「楽しみだな」 「てかさー、隼と琉に聞きたいことがあるんだけど」 唐突に尚に切り出されて、隣同士に座っていた俺らは目を見合せた。 「な、なに?」 慌てた様子の隼に、こいつは隠し事が下手なのだろうと実感する。 「二人って付き合ってんの?」 「ぶっっっーーー」 歯に衣着せぬ物言いで言う雷に、思わず飲んでいた味噌汁を吹き出した。 「わ、わりぃ!!」 慌ててテーブルを拭きながらも自分の顔に熱が昇っている事に気づく。 「て、て、て、てててか、な、なななななんだよ突然!」 「突然も何も毎晩毎晩二人でどっか消えるし、空気感もなんか違うし…さすがの俺らも気づくって」 「空気感て…」 呆れたように言う尚に短く返答する。 「や、言おうとは思ってたんだけど……」 気まずそうに話し始める隼を一瞬見やってから、持っていた箸を下ろした。 「やっぱり!?」 「まじでか!!!」 「黙っててごめん」 嬉しそうな反応をしてくれる二人に小さく頭を下げる。 続いて隼も頭を下げたのが視界の端に写った。 「全然いいよ〜。めでたいねぇ」 「じゃああれは痴話喧嘩か?」 「いやぁ…そうゆう訳じゃ……。なんか隼が突っ走ってただけで」 横目で隼を見ると、気まずそうに視線を逸らした。 「いいじゃん!もー!!掘り返すなよ!!」 「はいはいごめんごめん」 ほっこりとした笑みを向けられて、少し気恥ずかしくなった。 隼と雷が点火する置花火を見ながら、夏の終わりを感じた。 気づけばもう8月も後半で、あと4ヶ月もすれば今年も終わる。 来年になったらすぐ卒業だ。 光っては消える花火が、やけに儚く感じた。 「りゅーう。はい」 「おー、ありがと」 ジンジャーエールを差し出しながら、尚が俺の隣に腰を下ろす。 「きれーだね」 「な」 バカ騒ぎをしながらいつの間にか手持ち花火へと移行した雷と隼の姿に笑みが零れた。 「あいつらは毎年変わんねぇな」 俺の言葉に、尚が小さく声を上げて笑う。 「隼と琉の関係は変わったけどねえ」 ニヤニヤと笑いながら言う尚に、思わず笑ってしまった。 「そんな変わってもねえよ」 「そうゆうもん?」 「まー、友達の期間が長かったしな」 持ってきてくれたジンジャーエールを飲みながら見上げた夜空が、キラキラと輝いている。 「琉と隼が幸せそうで安心した」 しみじみと言われると、気恥ずかしくなる。 「おーーい!線香花火やろうぜ〜!」 「なにしてんだよー!こっち来いって!」 雷と隼に馬鹿でかい声で呼ばれて、尚と顔を合わせて笑った。 「今行く〜!」 走って二人の元へ向かう尚に続いて、俺も二人の元へと歩み寄る。 「はい、琉」 「サンキュ」 隼から線香花火を受け取って、四人で丸くなってしゃがみ込んだ。 「なあなあ、線香花火で勝負しねぇ?」 「勝負?」 「最後まで火が残ってた人が勝ち!」 雷の提案に首を傾げる俺に、尚が勢い良く説明をしてくれる。 「なんか掛けんの?ジュースとか?」 珍しく的を得た質問をする隼に、二人は首を左右に振った。 「「後片付け!」」 「「ゲ」」 花火のゴミが大量に入ったバケツと、ロウソク。 それは民宿の隣にあるゴミ捨て場に綺麗にしてから捨てて、バケツも綺麗に洗って片さなければならない。
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