夏の終わり

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いつもだったら四人でやる作業だが、それを一人でやるとなれば相当な労働になる。 「まあ一人でやるのは無理だからさ、二対二で戦おうよ」 「どのペア?」 「もちろん、そっち二人対俺と雷に決まってるじゃん」 可愛い笑顔で言い切る尚に、小さくため息を吐いた。 「ま、やるか」 「よし!それでこそ男だ!」 「いい?琉」 「おー。やろうぜ」 隼に問いかけられて、ここで断るのも癪だと思いこくりと頷いた。 「いくぞ!」 四人の線香花火を真ん中に集めて、雷がライターで火を付けてくれる。 膝を支えにして揺れないようにしながら線香花火を見つめた。 線香花火に照らされた三人の顔を見て、しみじみと良い友達を持ったなぁと実感する。 こいつらと出会わなかったら、俺の人生はどんなもんだっただろうか。 きっと、つまらない人生だっただろうな。 来年卒業しちまっても、こいつらとは一緒に居られたらいいな。 なんてよそ見をしていると、ポトリと俺の火種が落ちて目を見開いた。 「うわっ!!悪ぃ、隼」 無意識に隼の肩に触れると隼の体が跳ねてその衝撃で隼の火種も落ちた。 「びっ……く、りさせんなよ!琉!」 「あははははは!隼過敏に反応しすぎじゃね」 笑いながら隼を馬鹿にする雷の火種も、程なくして落ちた。 「ごめんて隼」 「や、いいけど」 「てか尚長ぇな〜」 三人でジッと尚の線香花火を見つめるが、結局尚の火種が落ちる事はなかった。 「いぇーい。俺の圧勝〜」 「……てかそういや尚って線香花火得意じゃん」 小さく呟くと、隼がハッとした顔をして俺を見る。 「嵌めたな!?」 「何のこと〜???じゃ、二人ともよろしくね」 「たのんだぞ〜」 手を振りながら立ち去る二人の背中を見送ってから、ため息を吐きながら立ち上がった。 今日で夜の海が最後だと思うと、なんだか寂しくなってくる。 「…片付けっか」 「ん」 バケツを持ちながら言われて、頷きながらゴミ捨て場に向かう隼に続いた。 重いバケツをなんの文句も無しに持ってくれる所が、こいつの優しいとこだよな。 負けたのだって、ほとんど俺のせいなのに。 隼の隣に駆け寄って俺もバケツの取っ手を持つ。 チャプンと音を立てて中の水が揺れた。 勢い余って手が当たると、大袈裟に隼の体が揺れる。 「ど、どうしたの」 「いや、俺も持とうかなって…。つーか俺が触る度に過剰に反応しすぎ」 もうこの関係になって二週間も一緒に居るというのに、隼はまだ俺から触れられる事に慣れない。 何度もキスをしているのに、何を今更そんな反応をするのか。 「……ごめん」 「別に…謝られたい訳じゃねえけど」 歩きながら横目で隼の横顔を見る。 「なんか、あんま良い気はしない」 異様にいじけたような言い方になってしまい、足元に視線を落とした。 「や、違う。ほんと、嫌とか…そゆんじゃなくて」 分かってるよ。 隼がそんな風に思うわけないってことくらい。 でも、たまに触れるだけでそんな反応をされると、こっちだって触るのを躊躇ってしまう。 それに、どこか気まずくなってしまう。 「なんか…なんだろ、琉もさ、俺と同じような気持ちで居てくれてるって思うと……なんか分かんねえけど爆発しそうになんの!!」 「ば、爆発???」 「そう!爆発!!だからそれ抑えるのに必死なの!!」 「ふ……ふーん…」 訳が分からない。 こいつの語彙力が問題なのか、俺の恋愛経験の無さが問題なのか。 よく分かんねぇけど、多分今のこいつにこれ以上言っても無理なんだろうな…。 ゴミを片付けた帰り道、不意に手を握られて隼の方を振り返る。 眉を下げてヘタレ面をしているそいつに、小さく笑った。 「……お前から触るなら良いって、勝手なやつだな」 自然と恋人繋ぎをしながら、部屋への道をゆっくりと歩く。
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