夏の終わり

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「琉からも触りたいって思う事あるの?」 「……さあな」 触りたいなんて、思うより先にいつもお前から触ってくんじゃん。 手繋ぎたいって思う隙も、抱き締めたいって思う隙も与えないくらいに、こいつは絶妙なタイミングでそれをしてくる。 長い付き合いだから、そんなとこの思考も似てくるのかな。 バケツを所定の位置に戻して部屋へと向かうが、部屋の鍵が掛かっていて俺たちは目を見開いた。 「え、と……え?どゆこと?」 ガチャガチャと何度も音を立ててみるけれど、扉は一向に開かない。 「おーい。尚、雷!開けて」 扉を叩きながら叫ぶが、中からは物音1つしなかった。 「え、もしかして寝たんじゃ……♬〜〜 隼が言いかけたところで俺の携帯からメールを知らせる音楽が鳴り、携帯を取り出す。 尚からのメールみたいだ。 『隣のお部屋奈美ちゃんから借りておいたから2人で使って♡』 「は!?」 「ぅおあ!!!どうした!」 突然大声を上げた俺にビビって声をあげる隼に、携帯の画面を突き出す。 「はぁ!?」 案の定隼も俺と同じ反応をするけれど、これ以上ここで騒いでいても埒が明かない。 ため息を吐きながら、隣の部屋へと向かった。 今日の朝報告して当日にこれかよ…… あいつら仕事早すぎんだろ…。 「ちょ、おい!琉!」 「うるせぇ。周りに迷惑だろ」 「いや……でも」 戸惑っている隼を放置して、すぐ隣の部屋の扉を開く。 中は俺らが泊まっていた部屋の半分の大きさみたいだ。 丁寧に俺ら二人の荷物も移動してある。 初めっから全部仕組まれてたってことか……。 2つ並んで敷かれた布団にため息を吐きながら、狭い部屋に足を踏み入れた。 「ちょ……無理。まじで。尚か雷に電話……」 扉の中に入ってくることも無く携帯を取り出す隼の手を掴む。 「良いじゃん別に。もう寝るだけだし」 「や、でも…」 「ほら、早く」 掴んだ手をそのまま引いて、反対の手で扉を閉める。 「一々往生際が悪ぃんだよ」 全く、と言いながら布団へと向かう。 けれど隼は玄関先に突っ立ったまま微動だにしなかった。 「……お前は…分かってねえんだよ」 俯きながらボソボソと喋る隼を見ながら、布団へと腰を下ろす。 「ん?」 聞き返すけれど、隼は壁にもたれたまま何も言わなかった。 最後の夜に、隼と二人で過ごせるってなって…… 一瞬俺は色んな事話せるなーとか、そんな事思ってたけど。 隼はそうじゃないみたいだな。 「しゅーーんーー。いつまでも突っ立ってねぇでこっち来いって」 胡座をかきながら玄関に向けて声を発してみるけど、それも不発だった。 はぁ、とため息を吐いて、携帯を持って玄関へと向かう。 「分かった。そんな嫌なら尚に電話すっから……」 リダイヤルから尚へと着信をしようとした瞬間、ガタンっと大きな音を立てて壁に押し付けられた。 両手首を握られて、軽く持っていた携帯が床に落下した。 「ちょ、隼……」 俯きがちの隼の表情が良く見えない。 「隼っ…痛てぇって……」 抵抗もしていないのに目一杯手首を握りしめられて僅かに痛みが走る。 「お前って…ほんと、馬鹿なの?」 乱れた前髪の隙間から睨みつけられて一瞬背筋が凍った。 「しゅーーーんっっ」 身動きが取れないまま唇を奪われて、あまりの強引さに驚いてしまう。 まるで初めてした時のような感覚に驚きが隠せない。 何度も角度を変えて唇を塞がれ、上唇を甘噛みされれば腰にズクリと快感が走った。 ……なに、今の感覚… 一旦唇が離れて、荒れた息の中隼を見上げる。 「琉、口開けて」 「…え?ーーんぅっ」 口内に隼の舌が侵入してくる。 この二週間、こんなキスをして来ることは無かった。 かぶりつくような隼のキスに、自分が少しづつ興奮してしまっている事に気づく。 負けじと俺も舌を絡ませれば飲み込み切れない唾液が俺の首筋を伝った。 上顎を舌でなぞられれば、背中に電流のような快感が走る。 ボンヤリと視界が歪んで頭もぼうっとして来た。 足に上手く力が入らなくなり、壁を伝って床へと崩れ落ちてしまう。 いつの間にか離された両手がだらりと床に落ちる。 俺の息遣いが、嫌なくらいに部屋に響き渡っていた。
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