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「はよー」「もーにん」
2人並んで教室へと入ると、乱雑な教室がざわめいている事に気づいた。
「おいおい、何。どうした?」
人混みをかき分けて円の中心へと進んでいく隼の後ろに続く。
するとそこには、複数人の傷だらけのクラスメイトの姿があった。
「おい、誰んやられた」
バンッと怪我をしているクラスメイトの机を叩きながら尋ねる隼の声で、ピタリと騒ぎがおさまる。
「わ、わかんねぇ…」
「暗闇で突然襲われて……」
「名前は。それか特徴」
頭に血が上っている隼を追いやってクラスメイトに尋ねる。
「名前は…わかんねえ……。ただ、一番偉そうなやつは銀髪…だった」
銀髪、と言うワードにハッとして隼を見ると、隼も同じく俺を見ていた。
「……わりぃ、それ俺らのせいかも」
「おい、行くぞ隼」
持ってたバックを机の上に置いて今来た道を戻ろうとすると、すかさず隼に手首を掴まれる。
「ーーっんだよ!」
「俺が行く。お前は残れ」
「は?!何言ってんのお前」
「隼!俺も行くぜ」
「俺も俺も〜」
目を見開いている俺の後ろから、それぞれ尚と雷が声を上げる。
尚も雷も中学からのダチで、この2人もなかなかに喧嘩っ早い。
身長は低いが、その可愛らしい顔とは裏腹に腹黒い性格をしている尚と、俺や隼よりも身長が高く髪をまっキンキンに染めてザ、ヤンキーみたいな見た目をしている雷。
俺らはなんだかんだと言ってこの四人でつるむ事が多かった。
ーーなのに。
「いや、俺一人でいい」
たった一人であいつの元へと向かいたがる隼に、俺らは固まってしまう。
クラス中から「俺も行く」と声が上がるけれど、隼が首を縦に振ることはなかった。
「隼。お前何言ってんだよ。相手何人いるかも分かんねえんだぞ」
「お前らは学校に残れ。俺一人で十分だから」
肩を鷲掴みにして言う俺の手を、隼の手が荒々しく振りほどいた。
「おめぇなにそんな頑なんなってんの」
「…もう三年なんだから喧嘩は控えろ」
「それはお前も同じだろうが」
「いーーから。琉も分かってんだろ。あいつくれぇ俺一人で十分なんだよ」
二カッと満面の笑みで言う隼に、呆れて溜め息を吐く。
「……ヤバそうになったらすぐ連絡寄越せよ」
これ以上何を言っても無意味だ。
隼は後ろ手を振りながら、走って教室を後にした。
「おい琉!良いのかよ、一人で行かせて」
「仕方ねぇだろ。あの頑固野郎は何言っても無駄だよ」
慌てた様子で声をかけてくる雷に、再び溜め息を吐く。
クラス中のやつらが納得行っていない様子だったが、実際このクラスのトップは俺と隼だ。
その二人が話して決めたとなれば、みんな否応なしに従うしかない。
それは誰もがわかっている事だった。
「まあ、多分…俺らが思ってる相手なら、あいつが負けることはねぇよ」
銀髪ーーー。
それを聞いて俺らがまっさきに思い浮かべた相手はきっと同じ男だ。
土山彰。
俺らの中学の先輩で、事ある事に俺らに喧嘩を吹っかけてきていた。
負けた事は無いし、毎回俺らの圧勝だったけれど。
何が気に入らないのか、あいつは何度もこうやって喧嘩を仕掛けて来ていた。
……だが、いつもだったら真っ向から俺らだけを狙ってくる。
こんな、俺らの周りのヤツらを狙って来るのは初めての事だ。
いつもと違う些細な事に引っかかりながら、つまらない授業を淡々と聞いていた。
とはいえ、席に座っているのは怪我人数名と俺位のもんで、他の奴らはバスケットボールで遊んだり、ボードゲームをしたりしている。
先行もそんな俺らに慣れきった様子で、ただただ黒板に文字を記し続けていた。
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