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「で、俺らに何か言うことは無いんですか」
仁王立ちしている雷に睨みつけられて、俺らは柄にもなく背筋を伸ばした。
朝っぱらの教室で、クラスメイトを従えて怒っている雷と尚に隼と2人で目を見合わせる。
「「すみませんっしたー!!!」」
「俺らがどんだけ心配してたか分かる!?」
泣き真似をしながら言う尚の姿に、小さく溜め息を吐く。
「夕方には連絡したろ…」
「喧嘩が収まったのはいつ!!」
「昼過ぎ頃じゃね??」
アハッと笑いながらあっけらかんとする隣の男を見て、クラスメイト達がより一層怒りを顕にした。
「もう二人共さ、喧嘩が強いのは知ってるけど今回みたいな無茶するのやめてよね…」
「ほーい」
「つーか隼がそんなに怪我してんの、珍しいな」
雷の言葉に体が固まったのはどうやら俺だけだったみたいで、隼は早々と自分の席へと行ってしまった。
何やら話している二人を見ながら、俺は入口に立ち尽くしてしまう。
「琉?」
名前を呼ばれてそちらを見ると、尚が心配そうに俺を見ていた。
「どうかした?」
「……何でもない」
小さく返して、俺も自分の席へと向かう。
つまらない授業が始まり、大騒ぎするクラスメイトに囲まれながらも黒板の文字を見つめた。
頬杖を付いて授業を聞く振りをしながらも、俺の頭の中は隼の事でいっぱいになっていた。
結局昨日隼が大人しくボコられたのは俺のためだったみたいだけど……
その真意がイマイチよく分からない。
少し前まで一緒に喧嘩をしていたのに。
ココ最近、隼は一人で喧嘩をするようになっていた。
まあ確かに俺も喧嘩をする気は無いけど、俺がそれを口にするより少し前からその行動は始まっていた。
…なんか、よく分かんねぇな。
ずっと一緒に居るはずなのに、考えている事すら分からない。
元々自分の気持ちをさらけ出し合っている訳では無いが、最近はより一層お互いの事を話さなくなった気がする。
「隼〜!」
まあ、分かるのは女関係くらいか。
昼休みになった瞬間に教室に響き渡った甲高い声に、知らず知らずのうちにため息を吐いていた。
このクラスはたまたま男しかいないが、校内には半数ほどの女子生徒がいる。
教室の入り口に立っていたのは、見るからにチャラついた女子生徒だった。
長い茶髪を綺麗に巻いて、化粧もバッチリ。
パンツが見えそうなくらい短いスカート。
見るからに隼が好きそうなタイプだ。
とは言っても、隼は基本女とは長く続かない。
続いても1ヶ月やそこら。
今日来てる女だって、先週の女とは別人。
毎回決まっているのは、気の強そうなチャラい女だって事くらい。
女の肩を抱きながら教室を後にする隼を見届けてから、俺も教室を出た。
屋上へと続く重い扉を開き、更にハシゴを登って校舎のてっぺんへと進む。
強い風に吹かれて、春の香りを感じた。
ゴロンっと寝転んで見上げた空は、綺麗に晴れ渡っている。
高校最後の春と思うと、どこか寂しい気持ちになった。
「やーっぱここにいた」
陽気な声に体を起こすと、ひょっこりと顔をのぞかせる尚の姿があった。
ふわふわの茶色い髪が風に遊ばれて邪魔くさそうだ。
「尚」
「よいしょっと」
俺の隣に腰を下ろして上に伸びをしている尚を、じっと見つめる。
「で、何があったの」
「え?」
「そんくらい分かるよ。琉、今日1日ずーっと何か考え込んでるでしょ」
人差し指を突き立てながら言う尚に、こいつには敵わないなと思った。
昔っから人の事をよく見てて、少しの異変にすぐ気づく。
他人には全く興味を示さないが、一度仲間と思ったやつの事に対してはとことん面倒見がいい。
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