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「…別に、大したことじゃねえよ」
「大したことじゃなかったら、そんなに悩まないでしょ?」
チョコチップが入ったスティックパンを徐に食べながら呆れている様子を見せる尚の姿に、視線を逸らせた。
屋上に来る前に買っておいた紙パックのミルクティーを飲みながら、沈黙を返す。
「琉も食べる?」
「要らない」
「相変わらず食細いよね」
全くもう。と呟いているけれど、尚の昼飯の量だって少ない。
4人で飯を食いに行くと、俺と尚だけ確実にいつも食べる量が少ないのだから。
ガキの頃から変わらないな、と思い一人口角を上げた。
「隼がさ」
「うん?」
ポツリと呟くと、パンを咥えたままの尚の視線が俺に移った。
「隼が昨日素直にボコられたの、俺のせいだった」
「ん??」
「なんか、よく分かんねぇんだけど」
不思議そうに見つめられて、小さく笑う。
「俺に手出させないためにボコられたらしくてさ」
訳わかんねぇよな。と言って、頭を掻きむしる。
口に出すと尚更訳が分からない。
なんで俺があいつに守られないといけねぇんだよ。
しかも、今更。
「ま、結局二人でボコして帰ってきたけど」
「隼があんなに必死に琉を行かせなかった原因はそれか」
「ん、そうなんじゃん?今更なんだよって感じだけど」
「んーー」
パンを食いながら腕組みをして考え込む尚を横目に、ミルクティーを飲みながら空を見やる。
高校生になって、隼が女遊びをしはじめて4人で過ごす時間は減って行った。
朝だけは必ず俺と登校するけれど、隼の放課後が空いている事は1週間に1回あるかないか。
昼休みも居ないことが多いから、4人で食っていた昼飯の時間も自ずとバラバラになっていた。
「隼も大人になったってことなのかな」
「あいつが?」
「琉に、傷ついて欲しくないんじゃない?」
「それこそ訳わかんねぇだろ。今までずっと一緒に喧嘩して来てたんだぞ」
「でも琉は喧嘩が好きな訳じゃないじゃん」
「……それを言ったら隼も別に好きって訳じゃねぇだろ」
「ま、それもそっか」
というか、俺らの中にそこまで喧嘩好きってやつはいない。
ただ目立ちやすく、絡まれやすいため喧嘩はするが、自分から喧嘩をしに行くようなやつはいない。
「琉は、嫌なの?」
「嫌っつーか……癪というか…」
「守られてる事が?」
ははっと笑いながら言われて、自然と唇を尖らせた。
守られるだなんて性にあわない。
てか男に男が守られるとか意味分かんねぇし。
「でもさ琉、将来の事を考え始めたなら喧嘩をしない事がベストなんじゃない?」
「それはそうかも知んねぇけど」
「俺はすごいと思ったよ。ちゃんと将来の事考えて、行動に移せるの」
「んな偉いもんでもねぇよ」
将来への不安を感じたのは事実だ。
今まで遊び呆けて、ろくに勉強もして来なかった。
いつの間にか来年には社会人になれる歳になってて。
中身はまだまだ子供のままなのに、年齢だけが先へ突っ走っていく。
でも、先行によく言われてきたが、勉強ってのは日々の積み重ねってやつだそうで……
今更真面目に授業を聞いた所でその半分も理解なんか出来ていない。
すごいだなんて言って貰えるようなもんじゃない。
「すごいって思ったのと同時に……寂しくなった」
「え?」
小さく吐露する尚に、持っていた紙パックを一旦置いて尚を見つめた。
「あー、こうやって大人になって行っちゃうんだなーって。俺ら4人でつるんで、楽しいばっかりの時間は続かないんだよね」
「…あと一年もすれば、みんなバラバラだもんな」
「琉も寂しいとか思うの?」
「そりゃこんだけ長く一緒にいんだから、思うだろ」
何故か不思議そうにする尚に、微笑みながら返す。
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