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「なんだ、そっか」
どこか安心したように言われて、空を見上げる尚に続いて俺も青空を見上げた。
「隼との事はさ、本人とちゃんと話してみたら?」
「話しても埒が明かないんだよ」
「どうして?」
「琉には怪我が似合わねえとかそんなふざけた事ばっか言ってきやがる」
呆れながら言う俺に、青空に尚の笑い声が響く。
「何それおもしろ」
「面白くねぇよ。そんなんで隼が一人で傷だらけんなってどーすんだって話じゃん」
「それはそうだよね」
食べ終えたパンの袋を丸めながら、尚が優しい笑みを浮かべた。
「隼も変わらないな〜」
「なにが?」
「昔っから隼は自分の怪我より琉の怪我に敏感だったじゃん」
そう言われてみれば
一緒に喧嘩してた時も、俺が少しでも怪我すると騒ぎ立ててたっけ。
小学生の頃なんてちょっと転んで血出た位で大騒ぎして…
逆に恥ずかしい思いをした時もあった。
「だからって今更すぎだろ。」
アハハっという尚の声と共に予鈴が鳴り響き、俺たちは同時に重い腰を上げた。
「ま、ゆっくり話してみなよ」
「……気が向いたらな」
ミルクティーを飲みながら教室への道を歩く。
あんだけふざけた返答をされて再びその話題を出す気にはなれないが、こっちの気持ちが治まったらもう一度聞いてみよう。
全く、面倒なやつだ。
そんなことを思いながら階段の踊り場から教室へと続く廊下へと出ると、見たくもない物を目撃してしまい眉を顰めた。
「わーお」
尚は楽しそうに声を上げるが、俺は自然とそれを睨みつけてしまった。
尚の声に反応して人通りの少ない廊下でさっきの女とキスをしていた隼が顔を上げる。
女は色気ムンムンの笑みを残して、自分の教室へと去っていった。
「みーちゃった」
茶化すように隼に駆け寄る尚の後ろを歩いて行く。
「うるせ」
ハハッと笑いながら返答する隼に、なぜだか妙に苛立った。
「つーかこんなとこでやってんなよ」
吐き捨てるように言って、二人の間を縫って教室へと入る。
俺がこんだけ色々考えてる間に女とイチャイチャしやがってるこいつが異様にムカついた。
そんなのは自分の勝手なのは分かってはいるけど…。
「琉。今日一緒帰ろ」
「え、お前彼女は?」
「や、別にあいつとは付き合ってねぇし」
授業が終わった瞬間机にひょっこりと顔を出す隼に、思わずため息を吐いてしまう。
ほんとこいつは、性に奔放と言うかなんというか……
ペシャンコの鞄を持って、隼と共に学校を出た。
「てかお前さ、そろそろ女遊び止めれば?」
土手を歩きながら昼間の行動を指摘すると、へらへらした顔で隼がこちらを向く。
「相手も分かってっから良いんだよ」
「そーゆー問題かよ」
「お互い本気じゃないからこその関係なの」
俺にはよく分からないなと思いながら河原を見ると、陽の光が反射してキラキラと光っていた。
「琉は彼女とか作んねぇの?」
「俺は…恋愛とかよく分かんねぇし、面倒」
そりゃ何人かと付き合った事はあるし、やる事もやってきた。
いつも俺の性格なんて良く知りもしないやつらが寄ってきては、冷たいだのなんだのと言って去っていく。
それを引き止めることもなかったし、引き止めたいとも特段思うこともなかった。
「お前枯れてんの」
「下世話」
にやにやと笑いながら言う隼に、ピシャリと言い放つ。
「お前みたいに器用に出来ねぇだけだよ」
「俺はまあ…本命と付き合えねえなら誰と居ても変わんねぇし」
いつになく真剣な声を出す隼の言葉に思わず目を見開いてそちらを見る。
「な!なんだよ!!!」
そんな俺の行動に驚いた隼も、同じく歩みを止めて俺を見た。
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