腐れ縁

9/11
前へ
/107ページ
次へ
「い、いや…お前の口から本命なんて言葉が出ると思わなかったから」 「失礼なやつだな」 「つーか本命いんなら尚更やめろよ、女遊びすんの」 「いーの。頑張るつもりもないし伝える気も無いし」 地面をわざとらしく蹴り上げながら歩き始める隼に続く。 隼の口からそんな弱気な事が出てくるとは思わず、内心驚いた。 「お前がそこまで言うって事は、よっぽど難しい相手なの?」 「ん、まーね」 「ふーん。俺知ってるやつ?」 「さあ」 話をはぐらかされて、思わずムッとしてしまう。 なんでも話していた子供の頃とは何もかも違ってしまったのだと、やけに苛立ちが募った。 「つーかお前の今の状況知ったら、その子だってドン引きすんじゃねぇの」 「……だろうね」 「なんでそんな逃げ腰なわけ?」 「お前に関係ねぇじゃん」 「……それは」 「つーか昼間も思ったけど何をそんなイラついてんだよ」 眉間に皺を寄せて俺の前に立ち塞がる隼に、こちらも負けじと眉間に皺を寄せた。 睨み合うような形になって、いつの間にか出来た身長差を思い知らされる。 「別に…」 「はぁ。もう止めようぜこんな話」 多大なため息を吐いて再び歩き出す隼に、イラつきが爆発して思い切り突き飛ばしてやった。 よろけた隼の鋭い目が俺を射抜く。 「おめぇが悪ぃんだろ!最近何聞いてもはぐらかしやがって!!!こっちは気分悪ぃんだよ!」 「はあ?」 呆れたようにこちらへ向き直る隼と目を合わせないようにして、足早にその場を立ち去った。 幸い隼が追いかけて来ることも無く、俺は家に駆け込んですぐ様鍵をかけた。 なんでこんなにイラついているのか、自分でも分からなかった。 隼の知らない面がどんどん増えて、どこか遠くに感じる。 大人に近づくって、そう言うことなのかな。 それぞれの考えが確立されて行って、いつの間にかその全てを友達に話すなんてことは無くなって…。 そしていつか連絡すら取り合わなくなるのかな。 連絡なんて取らなくても毎日会えるのなんて今だけで、いつかあんなヤツいたななんて思ったりするんだろうか。 それはさすがに寂しいな。 ベットに寝転んで、天井を見上げる。 隼とこんな風に喧嘩みたくなったのは、考えてみれば初めてかもしれない。 小学生の頃はそれこそ取っ組み合いの喧嘩とかしてたけど、殴り合ったあとには2人揃って笑ってた。 口論になってそのまま家に帰るのなんて、初めての経験だ。 関係ないと言われた一言が、やけに耳に残っている。 「……くそ…」 なんで俺があいつの為に一日中悩まないといけないんだよ。 どうせ、明日になったらあっけらかんとした顔で話しかけてくるだろう。 なんて、昨日の夜は考えていたけど… 隼と会わないまま学校へとたどり着き、今回の喧嘩はいつもと違うのかも知れないと感じ始めた。 そのまま教室へと向かうと、廊下で見知らぬ女子と手を握りあって話している隼の姿があった。 隼が俺より先に登校しているなんて、珍しい事もあったもんだ。 それに、昨日とは全く違う女を連れて。 隼を一瞥してから教室へと入ると、中は動物園の如き騒ぎだ。 そんないつもの日常に安心しながら自分の席へと進む。 「隼休みか?」 「いや、廊下に女と居た」 挨拶より先に隼の事を確認してくる雷に端的に答えると、首を傾げてから近くにあったイスに反対向きに座った。 「別々に来たの?珍しいな」 「別に…約束してる訳じゃねえし」 「……喧嘩でもした?」 「…どうだろ、したのかもな」 自分達の事なのに喧嘩したなんて言うのが恥ずかしくて、濁してしまう。 「なになに、どうかしたの?」 俺と雷の様子を不思議に思った尚が駆け寄ってきて、心配そうに顔を覗き込んでくる。 「いや、琉と隼が喧嘩したって」 「え!?!?」 「ちょ、まて…殴り合いとかしたわけじゃねぇから」
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加