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「い、いや…お前の口から本命なんて言葉が出ると思わなかったから」
「失礼なやつだな」
「つーか本命いんなら尚更やめろよ、女遊びすんの」
「いーの。頑張るつもりもないし伝える気も無いし」
地面をわざとらしく蹴り上げながら歩き始める隼に続く。
隼の口からそんな弱気な事が出てくるとは思わず、内心驚いた。
「お前がそこまで言うって事は、よっぽど難しい相手なの?」
「ん、まーね」
「ふーん。俺知ってるやつ?」
「さあ」
話をはぐらかされて、思わずムッとしてしまう。
なんでも話していた子供の頃とは何もかも違ってしまったのだと、やけに苛立ちが募った。
「つーかお前の今の状況知ったら、その子だってドン引きすんじゃねぇの」
「……だろうね」
「なんでそんな逃げ腰なわけ?」
「お前に関係ねぇじゃん」
「……それは」
「つーか昼間も思ったけど何をそんなイラついてんだよ」
眉間に皺を寄せて俺の前に立ち塞がる隼に、こちらも負けじと眉間に皺を寄せた。
睨み合うような形になって、いつの間にか出来た身長差を思い知らされる。
「別に…」
「はぁ。もう止めようぜこんな話」
多大なため息を吐いて再び歩き出す隼に、イラつきが爆発して思い切り突き飛ばしてやった。
よろけた隼の鋭い目が俺を射抜く。
「おめぇが悪ぃんだろ!最近何聞いてもはぐらかしやがって!!!こっちは気分悪ぃんだよ!」
「はあ?」
呆れたようにこちらへ向き直る隼と目を合わせないようにして、足早にその場を立ち去った。
幸い隼が追いかけて来ることも無く、俺は家に駆け込んですぐ様鍵をかけた。
なんでこんなにイラついているのか、自分でも分からなかった。
隼の知らない面がどんどん増えて、どこか遠くに感じる。
大人に近づくって、そう言うことなのかな。
それぞれの考えが確立されて行って、いつの間にかその全てを友達に話すなんてことは無くなって…。
そしていつか連絡すら取り合わなくなるのかな。
連絡なんて取らなくても毎日会えるのなんて今だけで、いつかあんなヤツいたななんて思ったりするんだろうか。
それはさすがに寂しいな。
ベットに寝転んで、天井を見上げる。
隼とこんな風に喧嘩みたくなったのは、考えてみれば初めてかもしれない。
小学生の頃はそれこそ取っ組み合いの喧嘩とかしてたけど、殴り合ったあとには2人揃って笑ってた。
口論になってそのまま家に帰るのなんて、初めての経験だ。
関係ないと言われた一言が、やけに耳に残っている。
「……くそ…」
なんで俺があいつの為に一日中悩まないといけないんだよ。
どうせ、明日になったらあっけらかんとした顔で話しかけてくるだろう。
なんて、昨日の夜は考えていたけど…
隼と会わないまま学校へとたどり着き、今回の喧嘩はいつもと違うのかも知れないと感じ始めた。
そのまま教室へと向かうと、廊下で見知らぬ女子と手を握りあって話している隼の姿があった。
隼が俺より先に登校しているなんて、珍しい事もあったもんだ。
それに、昨日とは全く違う女を連れて。
隼を一瞥してから教室へと入ると、中は動物園の如き騒ぎだ。
そんないつもの日常に安心しながら自分の席へと進む。
「隼休みか?」
「いや、廊下に女と居た」
挨拶より先に隼の事を確認してくる雷に端的に答えると、首を傾げてから近くにあったイスに反対向きに座った。
「別々に来たの?珍しいな」
「別に…約束してる訳じゃねえし」
「……喧嘩でもした?」
「…どうだろ、したのかもな」
自分達の事なのに喧嘩したなんて言うのが恥ずかしくて、濁してしまう。
「なになに、どうかしたの?」
俺と雷の様子を不思議に思った尚が駆け寄ってきて、心配そうに顔を覗き込んでくる。
「いや、琉と隼が喧嘩したって」
「え!?!?」
「ちょ、まて…殴り合いとかしたわけじゃねぇから」
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