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ゲームが第一なアイツ
「遊さんいらっしゃい、入って入って」
「遊さん!待ってました!」
「お〜、二人とも元気?」
とあるマンションの一室、そのインターホンを押すと、見慣れた顔が二つ。颯斗くんと椿くんはこの部屋で同居をしている。ちなみに僕は、上京した時に初めて借りたアパートに今も住んでいる。だから撮影や配信の時はこうして僕が二人の部屋を尋ねるわけだ。
「遊さん、なんかまた綺麗になってない?」
「あーほんま?まあ君らと比べたら全然やろ」
「またそんなこと言って……。遊さんが他の人に取られたりしないか、俺心配だな」
「やっぱりここで一緒に住みましょうよ!」
ここに来る度にやたら「三人で住もう」と言われているが、僕は今の部屋に愛着があるので離れるつもりはない。あとこの部屋はファンに「ヤトバキの愛の巣」だのなんだの言われているので、そこに僕が加わればどうなるかは明白だろう。
──いや、別にファンから叩かれるのは全然いい。僕にはそれより大きな懸念点がある。
「ね、遊さん……。俺、遊さんともっと一緒にいたいな」
「腰抱かんといてくれる?」
「ご飯も作るし洗濯もしますよ?」
「ケツ撫でんといてくれる?」
こいつら、セクハラがすごいのである。ファンにはヤトバキだなんだのと騒がれているが、実際に付き合っているわけではない。恋人がいない男二人が共同生活となると、色々溜まってくるものもあるのだろう。だからって僕に手を出さなくてもいいのではないだろうか。確かに三人の中では一番中性的な容姿をしている自覚はあるけれども。たまにナンパ男に「お姉さん背ぇ高いね、モデル?」って話しかけられたりするし。
「そんなことよりはよゲームしようや、ダウンロード終わってる?」
「ああうん、終わってるよ。でもその前にご飯にしようか」
「飯?あーごめん、家で食ってきたわ」
「じゃあ遊さんを食べます!」
「何で?怖い怖い」
二人を振り切って脱いだ上着を椅子の背にかけていると、白い頬を膨らませた椿くんが「遊さんってマジで鈍感ですよね!」と言って見上げてきた。こちらとしては十分に身の危険を感じているので鈍感ではない気がするが。
「……遊さん、あのね?今日こそ分かってもらいたいんだけど、俺たち遊さんが好きなんだよね」
「あーそうなん?どうもどうも」
「えっ……あの、恋愛的にだよ?」
「え?」
「あ、え?やっぱり分かってなかった?」
グループメンバーからぶつけられた唐突な告白に、さすがに頭が混乱する。今まで好きだ好きだとは言われてきていたが、一人でほぼ全てのヘイトを受け止めている僕に二人が気を使っているものだと思い込んでいた。それかもしくは──。
「えぇ……うわぁ、君ら僕のこと好きなん?ほんまに?」
「す……好きだよ!え!?今まで冗談か何かかと思ってた!?」
「いや、僕に気ぃ使っとるんかなって……。それか……」
「それか?」
「なんか……懐柔して都合のいい性処理役にしようとしてるんかと…」
「遊さんの中の俺ら悪ッ!!なんでそう思っちゃったの!?そんなことしません!!」
「まあ遊さんで処理したいかしたくないかで言えば全然したいですけどね!!」
「椿はちょっと黙っててくれるかな!?」
綺麗な緑色の瞳を丸くして取り乱している颯斗はちょっと面白い。目線を外し、もう一度「へー、僕のこと好きなんやー」と呟いてみると、颯斗と椿は二人しておずおずとこちらを窺ってきた。
「あの……それで、返事は……」
「あ?返事って?」
「いや、オレら一応告白したんですけど……」
「あぁ〜……」
頭を掻いていると、電源のついたパソコンにお目当てのゲームのタイトル画面が映っているのが目に入る。
「とりまゲームしてからでええ?プレイ中余計なこと考えたくないから」
「よっ……」
「余計なこと……!?」
固まっている二人をよそに、僕はいそいそとパソコン前の椅子に腰掛けたのだった。
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