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知らずのうちに好かれていたアイツ
「ていうか君ら、なんで僕のことなんか好きなん?」
ゲームのテストプレイも終わり、「余計なこと」を考える余裕ができた僕は、背後で食事をとっていた二人に尋ねてみた。
「自分で言うのもなんやけど、僕のこと好きになる要素なくない?」
真田遊という人間は、我ながら非常に性格がよろしくなく、生活能力も社会性も欠けているダメ人間である。顔と声はいいけど。そんな自分を颯斗くんや椿くんという全てに恵まれた人間が好きになるのは正直ありえない。よっぽど彼らの趣味が悪いとしか考えられなかった。
「そ……そんなこと言わないで。俺、遊さんにはたくさん助けられてるんだから」
「うそぉ。助けた覚えないで僕」
僕の返答に、颯斗くんはコップの水を飲んでから「はぁ」と息を吐く。その片手にはまだスパゲッティの巻かれたフォークが持たれていた。
「……覚えてない?俺が配信者始めたばっかりのころ。全然人気が出なくて『このままこんなことしてていいのかなぁ』って相談した時、遊さん言ってくれたよね。『大丈夫大丈夫、颯斗くんカッコええしおもろいから続けてたらすぐ人気出るわ』って。……あの言葉を支えに俺、今もやっていけてるんだからね」
「え?言ったっけ」
「え!?ほんとに覚えてないことある!?」
「覚えてない。なんも覚えてない」
「ッこの人は……!」
テーブルをダンと叩いて頭を抱えているところを見ると、どこかの真人間の顔を颯斗くんが勝手に僕で上書きしてしまったというわけでもなく、本当に僕が彼に言った言葉らしい。全然覚えてないけど。──まあ、確かに『OTOUHUのハヤト』になる前の颯斗くんとはよくつるんでいたし、その時どこかで何となく口にしたのだろう。
「でも、そういうところが遊さんだよね……。ほんと昔から変わってないな」
「え?マウントっすか?」
顔を上げてこちらへ穏やかな笑みを向けてきた颯斗くんの横から、にょきっと椿くんが顔を出す。
「確かに付き合いはハヤトくんの方が長いですけど、愛の大きさならオレだって負けてません!」
「へー……椿くんはなんで僕のこと好きなん」
「え?エロいからですけど」
「ブッ!!」
僕の代わりに颯斗くんが衝撃を表現してくれた。テーブルは彼が噴き出した水でびちゃびちゃだ。
「元々個人チャンネルで配信されてる時からこの人はエロいと思ってました」
「え……あの頃まだ手元しか映してなかったと思うんやけど」
「手がもうだいぶエロかったですね。ピコ生で初めて顔出しした時は叫びましたよ、『やっぱエロいじゃん!!』って」
「やばぁ……」
ピコ生……正式名称「ピコピコ生放送」。当時交流のあった配信者に呼ばれて一度だけテーブルゲームをする企画に出たことがあったが、まさかそれを椿くんも見ていたとは。そして知らぬ間にそんな目で見られていたとは。
「なので正直OTOUHUに入れていただいた時から全然抱くつもりでしたね」
「え?解散する?」
「しないで!!」
「椿、俺それ聞いてないんだけど……前から好きだとは聞いてたけど……」
「はい、前から好きでした。ゲームに愛があるところも合間のトークが面白いことも、あとエロいところも」
「性欲に忠実なタイプなんやね」
「そうです!」
「曇りなき眼……」
これはこれで清々しくて僕はいいと思う。颯斗くんは何か複雑な顔をしているが。
いやそれにしても、まさかここまで本気で慕われていたとは。セクハラしまくってくるなとは思っていたが、恋心の存在は完全に想定外だった。
「それで……どうですか?」
「どうとは?」
「遊さんはその、俺らのどっちかと付き合うとか……」
「オレは3Pでも大丈夫です!!」
「俺も駄目とは言わないけど言い方!!」
「あ〜……君らと付き合うってことね……」
僕がそう呟くと、二人は真剣な顔で頷く。
「う〜ん……いやどっちも無理かな」
「えっ……あ、やっぱり男同士は……」
「いやそうやなくて、普通にタイプじゃないし……」
「てことは男なのはいいんですか?」
「……というか遊さん、タイプとかあるの?どんな人が好きなの?」
「え〜?お金があってぇ、お金好きに使わせてくれてぇ、僕に干渉してこおへん感じの……あっ石油王とか」
「石油王!!」
「はいはい!!オレら人気Mytuberです!!収入あります!!どうですか!!」
「Mytuberとかいう安定性のない職業の人はちょっと……」
「あんたもMytuberだろ!」
颯斗くんにごもっともなツッコミを受けたところでマジレスすると、男同士の恋愛が無理という訳ではないが想像がつかない。ましてや今まで同じグループのメンバーとして接してきた相手となると尚更だ。──それをそのまま伝えると、二人はすんなり納得してくれたようだった。
「まあでも……それならまだワンチャンあるってことですよね」
「遊さんを諦めなくてもいいってことだよね」
「んー、まあそういうことでええよ。あ、でもどっちかと付き合ったらもう片方と気まずくなるし、いざとなったら3Pで頼むわ」
「はい!!わかりました!!」
「ええー…………」
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