未知の世界に踏み込むアイツ

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未知の世界に踏み込むアイツ

 ──その日、僕は未知の世界に遭遇した。 『ヤトバキ派多いけど自分は圧倒的にユウ受け。ハヤユウもツバユウもどっちもアリ』 「…………おぉ?」  いつも通りに観察用の鍵垢をウォッチングしていたところ、最近相互になったフォロワーがそんなことを呟いていた。まさかそんな人間が存在していたとは。思わず動揺していいねを押してしまう。一応僕のアカウントもヤトバキ好きのていなのに。 『ユウお兄さんはえっちなので絶対二人の童貞食べてます』 『いや逆にベッドの上ではわからせられてるのもアリだな』 『最近なんか雰囲気変わったけどえっちした?』  すごい。性行為への執念がすごい。間違っても童貞なんて食っていないし(というかさすがに二人とも既に経験しているだろう)、性行為に及んだことなどないが、なるほどそう見えている人もいるのかと一人頷く。ヤトバキ好きしか見てきていなかったから感動すら覚えた。 「ありがとう……泥まみれの長靴さん……」  顔も知らぬファンのハンドルネームを呟いたあと、僕はそっと観察用アカウントのプロフィールに『雑食なのでどのカプもいけます』と付け加えた。組み合わせや左右を気にする人が多いこの界隈、ヤトバキしか表記がないままつぶやきにいいねをし続けるのは流石に心苦しかったからだ。これで心置き無く僕受けのツイートにも反応できると思っていたところ、タイムラインに新たなツイートが表示された。 『ツバキから入ったけどやっぱユウお兄さんの実況おもしれ〜 ゲーム選びのセンス良すぎんよ』  な、長靴さん……!!思わず上半身を起こし、両手で持ったスマホに拝む。えっちさを褒められるのも嬉しくないことはないが、やはりこういった言葉が一番配信者冥利に尽きるというものだ。じんわり感動を噛み締めたあと、恐らく物凄く貴重であろう僕受けの僕リスナーに何かお礼はできないだろうかとふと思い立つ。 「かと言って本人としてリプとかDM送る訳にもいかんし……。あ、そや」  つぶやきを投稿する画面を開き、そこに手早く文字を打ち込んでいく。 『今限定公開になってるんだけど、ユウが某スポーツゲームやった時のアーカイブ見返してたらめっちゃ喘いでて草。ここから見れる』  URLを貼り付けて送信。こちらは僕が数年前に配信したもので、当時流行っていた実際に体を動かしてスポーツを体験するゲームの実況。体力がなさすぎて非常に弱々しい声をあげまくってしまい、見返した時我ながらあまりにもハレンチだったので恥ずかしくなって限定公開にした代物だ。『ツバキから入った』と言っている、恐らく比較的最近僕を知った人間は存在すら知らないだろう。  長靴さん、どうかこれでえっちの解像度を高めてくれ。そう思っていると、すぐにいいねの通知が来た。これには思わずほっこりしてしまう。 『神動画発見したんだが エッッッ』  そういったテンションのつぶやきがしばらく連投されていったのを見て、僕はその日幸せな気持ちで眠りについた。  ちなみに現実で颯斗くんや椿くんに抱かれる予定は今のところないので、これからも頑張って妄想の世界で生きていってほしい。
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