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ソロ配信を楽しむアイツ
今日は一人で配信の日。こういう時は決まってコメント欄に「ハヤトの話して」「ツバキの話して」なんて言う輩がやってくる。話のネタは無限にあるわけでもないし従ってもいいのだが、そうするとそれはそれで「擦り寄るな」なんて言われたりするので世知辛い世界だ。
……まあ、他二人の話をすると一気に視聴者数が増えるから、配信冒頭に人呼ぶのによく利用させてもらってるんやけど。普段苦労させられてるわけやしこれくらいはな、うん。というわけで、挨拶をしてから最近あったことを適当に話し始める。
「そういやこの前、ハヤトくんとツバキくんがおそろの指輪つけとったわ〜」
そう言うだけでコメントが滝のように流れ、『マ!?』『kwsk』などの詳細を求める声が溢れ返る。
「いや詳しくは分からんねんけど……。でもこの前一緒に買い物行ってたからその時かなー」
コメントを流し読みながら、テーブルに用意しておいたお茶を飲む。……今の話は紛れもなく真実だが、嘘でもある。どういうことかと言うと、おそろいの指輪を所有しているのは二人だけではないからだ。──そう、僕も同じ指輪をプレゼントしてもらっている。先日買い物に行ったらしい二人、というか椿くんから頂いた。「婚約指輪みたいでいいでしょ」とのことらしい。その隣で颯斗くんが苦笑いをしているが、彼は彼でしっかりと薬指に指輪をつけていた。その気やないかい。
「ははは、ほんま仲ええな〜あの二人は〜」
あらゆるコメントを乾いた笑顔で無理やり流し、余計なことを話さないうちに話題を強制終了させる。「いや重い重い」と言いつつ受け取ったシルバーリングは、未だ一度も指に通さないままテーブルの隅に置かれていた。
どっかに売る──のは、さすがにクズすぎるか。
視界の端にちらりと映るたびに謎の圧力を放つそれを、僕は見て見ぬふりした。
***
「遊さん、配信観ましたよ。指輪喜んでくれたみたいでよかったです!」
「何をどう解釈したらそうなるん?」
「えっ、だってあれマウントでしょ?オレらにだけ分かる。『ヤトバキかと思ったか!三人の愛の証でした〜!』的な!」
「証も何も、そもそも愛とかないんやけど」
「またまたぁ、照れちゃって……」
「…………やっぱナルカリで売ろかな、あの指輪」
「えぇ!?や、やめてくださいよ!!オレたちの愛の証が!!」
「だってあれ視界に入る度に君らの顔思い出すねんもん……呪物やでもはや」
「えっ……!あ、ありがとうございます……」
「いい意味で言ってないからな?」
──と、そんな会話を交わしたものの、やはり仲の深い相手からの貰い物だからか売るに売れず。その指輪はまだ我が家で、愛とさまざまな欲に染まったバラ色の存在感を放っているのだった。
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