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第一章 マンション 1
駅から自宅へと、夜の商店街の中を急ぎ足で歩いていく。右、左、次は右、と機械的に足を動かしながら、必死に頭は働いていた。
家に到着する頃には、この動揺をなんとか静め、平静を装って玄関を開けられるようにしていなければならない。
薫は今、この道を三十分ほど前に辿ったであろう、妻の後を追っているところだった。そしてその間に、考えておかなくてはならない。不倫の言い訳を。
今日はたまたま仕事が早く終わったので、すぐには帰らずリエの部屋へ向かった。
リエは会社の後輩で、数か月前からそういう関係にある。
彼女の部屋が薫の二駅隣だったのは好都合だった。仕事が早く終わった日はリエの部屋に寄り、一緒に夕飯を食べたり、コトを済ませたりして、その後妻の待つ自宅に帰る。それがパターンとなった。
一ヶ月に三、四回のそれは、日々通勤電車に揺られて会社と自宅を往復するだけの薫のささやかな楽しみだった。もちろん遊びと割り切っていて、家庭を壊す気はない。それはリエもわかっているはずだ。お互い割り切った、体の関係だ。
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