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妻がわめきながら入ってきて、うつ伏せの薫をものすごい力で突き飛ばす。それから薫の真下で寝ていた女に、殴りかかる。頬をバシーンと引っぱたくか、バッグを振り回してぶつけるかするだろう。リエの方も、黙ってやられてはいない。「何すんのよ!」と言ってやり返す。
二人の女の戦いに入ることもできず、薫はおろおろと横で見守っている。
やがて女たちが果し合いに疲れ、今度は三人での話し合いが始まる。
修羅場だ。本物の修羅場だ。
まず第一幕。泣き喚く妻が、部屋の中に入ってくる。その瞬間を、薫はギュッと目をつむって待った。首にかけられた、しなやかで冷たいリエの指に、心無しか力が込められた気がした。
永遠の一瞬。
それを過ぎると、背後から再び音が聞こえた。バタンと扉の閉じる音。
薫は最初その音を、玄関扉が自然に閉じたのかと思った。だがいくら待っても、その後何も聞こえてこない。誰かがそばに近寄ってくる気配がしない。感じるのは、依然真下にいるリエの細い体と、首にかけられた指の氷のような冷たさと、しっかり閉じた瞼を貫いて突き刺さるリエの視線だけだった。
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