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突然、リエが甲高い声で笑い出した。薫は思わず身を引いた。
何だコイツ、どうしたんだ? 頭がおかしくなったんじゃないか……。
ついさっきまで、その女の体で楽しもうと思っていたことは忘れた。代わりに軽い恐怖と嫌悪と、それから憎悪さえ感じた。
くそ、この女のせいで……。
薫はカバンを引っ摑むと、笑い狂っているリエをそのままにして、部屋を飛び出した。
奈美里ちゃんの後を追わなきゃ。薫の、まさに不倫現場を目撃した奈美里ちゃんは、部屋に入らずになぜかそのまま出て行ってしまった。きっと家に帰っている。
遠くでリエの笑い声が掠れていった。それがやがて嗚咽に変ったことは、薫は知るよしもなかった。
リエの部屋から駅まで三分、それから電車に乗って二駅。薫と奈美里のマンションは、駅から徒歩約十五分。
最初の三分、薫は、会社員に許されている限りのスピードで走った。息せき切って駅に着き、改札の中に滑り込むと、少し頭が落ち着いてきた。
一旦、頭を冷やそう。
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