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何故僕が、このような考えを持ち合わせ、想像を膨らませているのか。
──それは。
同じクラスに、幼い頃に両親が殺され、遠い親戚に引き取られるものの酷い虐待を受け、早く自立しようとバイトで金を稼いでいるという不憫な奴がいる。
そいつは、僕が密かに想いを寄せていた彼女と、いつの間にか親密な仲になっていたのだ。
その焦りから彼女に告白をした時、ハッキリこう返された。
『……貴方と彼とは、全然違うから』
普通を生きてきた僕には、──何もない。
掻き集めたとしても、せいぜい虐めた虐められた位なものだ。そんなありふれたものでは、彼女を振り向かせる事なんてできない。
あんな、人から同情されるような不幸な境遇を、最初から持ち合わせているのはズルい。
……不公平だ。
ゴォ──ッ
激しい音と共に掛かる、強い風圧。
それに身体が引き込まれ、侵入禁止線を踏んだ足が、本能的に後退る。
瞬き数回で通り過ぎていく快速電車。越えられなかった一線。何も出来ず見送ってしまった事が、悔やまれる。
「おーい、伊勢谷!」
突然呼ばれ、振り返る。
視界に映ったのは、同じクラスの神田と前沢。
「これから俺ら、合コンだけど……お前も来るか?」
「……」
「何だよお前。彼女にフラれた位で、いつまでも落ち込んでんじゃねーよ!」
「そーだそーだ。……お前、ソコ飛び込んで自殺なんかすんじゃねーぞぉ!」
ケタケタと笑いながら、神田と前沢が悪い冗談を交えて僕に励ましの言葉を掛けてくる。
「……ばーか。んな事で死ぬかよ」
瞬時に笑顔の仮面を貼り付け、演技じみた冗談で返す。
真っ直ぐな笑顔の二人。携帯に釘付けの女性。
その間を無機質に行き交う人々。
見知らぬ学生達。ラフな格好の青年。サラリーマン。赤ん坊を抱いた母親───
……ざわざわざわざわ
瞬間──脳裏を掠めたのは……
此方に背を向け、陽だまりの中を楽しそうに笑う彼女と、彼女と肩を並べ笑顔を返す、不憫なあいつ。
「……」
……ああ、そうか。
もしあの時、飛び込んでいたとしたら……
僕だけが時間を止め、僕以外がその先を生きていく──人生の火花が散った後は、きっとそれだけなんだろう。
結局、何も無いんだ。
彼女にとって僕は、只の同級生でしかない。
それ以上でもそれ以下でもなかったんだ。……最初から。
《end》
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