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プラットホーム
駅のホームに漂う、鬱屈とした生ぬるい空気に気圧されて……
僕は、演技じみた溜め息を吐き出した。
「……」
別段僕は、これと言って何も無い。
それなりに毎日は充実しているし、友達もそこそこいる。家族の誰かが引き籠もりとかニートとかでは無いし、自分の容姿が悪い訳でもない。
深刻な悩みも、特別抱えてる問題も無い。
今この視界に映る、何十人という老若男女の中に溶け込んだ、ごく普通の一般男子高生。
──それが、僕だ。
しかし、時折ふと感じる。
この普通が、とても苦痛なのだと。
ゴォ──ッ
渦巻く轟音が、僕を良からぬ方向へと誘う。今まで蓋をし、平凡に生きてきたこの感情に、否応でも向き合わせるかの如く。
直ぐ背後を横切っていく、幾人もの人々。その誰もが、本当の僕の事なんて知らない。だからきっと、必死で理由を探すんだろう。
もし僕が、目の前の線路に飛び込んだとしたら──
軽く目を瞑り、想像してみる。
電車に引かれる痛みよりも先に、僕には何も無いという事実に一抹の不安を覚える。──もしかしたら、理由なんて適当にこじつけられてしまうのかもしれない。
そんな事を知らない女性が、僕の背後に立ち並ぶ。振り返って密かに様子を窺うものの、携帯に夢中で僕に気付く様子は無かった。
『──間もなく、○番線に電車が通過します。』
ホームに流れるアナウンス。
ざわざわと騒がしいプラットホーム。
何故だろう。今まで経験した事が無い程、気持ちが昂る。
それまで感じていた不安は細く燻る煙となって消え、迫り来る通過電車を思うと、とてつもなく胸が高鳴り、心が踊り始めていた。
何者でもない僕が、何者でもない僕では無くなる──平凡な日常が、非凡に変わる──
ここにいる殆どの人間が、僕という存在を認識するのだ。
例えそれが、ほんの一瞬輝く、火花のようだとしても。
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