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上機嫌でウツボカズラを小脇に抱える男性客を見送ったあと、私は顔に貼り付けていた営業スマイルを、一瞬で真顔に戻した。
「本当に哀れね。食い物にされてるのは虫じゃなくてあなただって言うのに」
私は腕を組み、鼻で笑った。
「しょせん男なんて全員チョロいもんよ。ちょっと女を演じただけで、すぐ落ちるんだから……あの人を除けば」
髪の毛を整えて深呼吸をしたあと、正面からこちらに向かって歩いてくる、背の高いエプロン姿の男性を見据えた。
「店長!」
私は目を輝かせながら小走りで、店長の元へと駆け寄る。
「ユミさんお疲れ様。売上はどう?」
「は、はい。バッチリです! ついさっき、ウツボカズラが一株売れたところですし」
舞い上がっている私に店長は、
「へぇ! それはよく頑張ったね!」
と、よく陽に焼けて引き締まった顔をこちらに近づけ、着ているワイシャツに負けないぐらい白く光る歯を見せた。
自分の鼓動が急速に早まるのを感じ、重ねた両手を胸に強く押し当てる。続けて息を深く吸い込むと、
「あのっ」
私は精一杯の声を出した。
「店長、今夜空いてますか? もし予定がなければご飯でも」
店長は一瞬目を見開いたあと、すぐに笑いながら頭を掻いた。
「ごめん、今夜は予定があるんだ。また今度ね」
私の誘いを華麗に躱し、店長はバックヤードへと消えていった。
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