15人が本棚に入れています
本棚に追加
僕はワークチェアに身体を預けると、締めていたネクタイを緩めた。
「ユミのやつ、少しおだてたらすぐに調子に乗るから参っちゃうよなぁ」
目頭を揉んでため息をついたあと、店長デスクに上着を置き、立ち上がった。
仕切りカーテンをくぐり抜け、事務所の奥にある温室に入ると、高湿度の空気が肺を満たしていく。
僕は思わず伸びをし、顔をほころばせた。自分にとって唯一気が休まる場所は、ここしかないのだ。
「その点植物は良いよなぁ。裏表ないし、癒やされるし。まぁ、良いか、ユミにはもっと稼いでもらうとしよう」
額を拭い目を細めた。目の前では、ウツボカズラ達が所狭しとひしめき合っている。
「君達にもさらに可愛く仕上がってもらわないとな。よし、生育を良くするために温室を改築して、もっと環境を良くしてだな……」
一人で頷く僕を前に、ウツボカズラ達は、まるで笑うかのように袋の口を開き、ただ妖しく袋を揺らしていた。
最初のコメントを投稿しよう!