3  グレネード

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3  グレネード

この星とともに、この星の神は死んだ。神に代わってあらたに支配者となったのは、不条理という怪物。 虫はあらゆるものを食い尽くした。文明を、人を、心を。しかしそれは、滅びゆく星の命を、どうにか繋いでいる者たちの姿でもあった。最後の星の守護者は、残されたものを食らう虫、なのだ。 「最後の一発だ。ありがたく食らいやがれっ!」 ガニスのショットガンが火を噴く。しかし全身が硬い甲虫には傷ひとつつかない。だがわずかに虫がひるんだ隙にレイナに駆け寄り、抱きとめる。まだ息がある。まだ息があったとして、何になるのだろう。もう、ふたりは食われてしまうのだ。 だがそうはさせない。ガニスは最後に取っておいたグレネードのピンをはじいた。 「粉々になりゃ、食えねーだろ。ざまーみろ」 ガニスが薄笑いを浮かべた。笑うしかなかった。何度かこうした危機に陥ってきた。しかし今度こそダメだろう。だから余計におかしかった。 「すまん、レイナ」 そう言ってガニスは横たわるレイナという女兵士を抱きしめた。手に持ったグレネードから嫌なにおいが噴き出す。 「なげろっ」 突然声がした。子供のような声だ。 「え?」 「右だっ」 あわててグレネードを投げる。ちょうど地下から這い出てきた甲虫の顎に当たった。 「ふせろっ」 バン、と乾いた音があたりに響いた。顎から頭にかけ吹き飛んだ場所から、ドロドロとした液体が流れている。甲虫はゆっくりとひっくり返った。しばらく足を痙攣させていたが、やがて動かなくなった。ガニスは茫然とそれを見ていた。 また、バリバリっと乾いた音がした。グレネードじゃない。この音は知ってる。ミグザというオートマチックガンの発射音だ。 その音のする方に振り向いた。少し後方の、ちいさな岩の上にそれはいた。そうしてそれは無数の弾丸をあたりにまき散らしている。 こげ茶色のフードを被った、背の小さな人間が戦っている。ガニスにはそう見えた。いやでもそんなことはあり得ない。理由はただひとつ。その小さな人間のようなやつが持っている武器だ。そう、ミグザと呼ばれるオートマチックガンだ。 ミグザは口径こそ小さいが、信じられないほど高威力な弾丸を使い、連射速度は高速だ。だから普通の人間(ヒューマン)には扱えないのだ。扱えるとしたら、それは…。
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