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35 プログラムキー
ガニスがよろよろと立ち上がる。大佐とレイナもだ。
「大佐、どうしてわかった?」
この土壇場で大佐はスポッツの来ることを知っていた。いったいどういうわけだ?
「地下の群衆の中で彼女がいた。合図してくれたのだ」
「うそだろ」
彼女とはもちろんテリルだ。あいつは密かにこの街に潜り込んでいたんだ。そうして俺たちの危機を救った。あんなことを言った俺を、助けてくれたっていうのか…。
地下からみんなが出てきた。老人を先頭に。
「あいつらをどうする?」
ガニスが老人に聞いた。
「もちろん裁判にかける」
そう老人は言った。テリルが来た。ニコニコと笑ってる。ガニスはちょっと下を向いてしまった。アトラスが何か抱えている。
「外で拾った」
そう言ってテリルが銀のフィルムのようなものを剥ぐと、なかに人がいた。
「テア?」
老人が駆け寄る。アトラスに抱えられていたそれはそっと下ろされた。よろよろと立ち上がるそれは女だった。
「父さん」
「テア」
女と老人が抱き合った。黙って見ていたガニスに女が気がついた。目を見開き、大きく口を開けた。
「ガニス?」
「久しぶり」
テアは泣き出していた。突然の再会に、どうしていいのかわからなかったようだ。レイナは見ないふりをした。
「大丈夫だ。ガニスはおまえのことでいっぱいだ」
テリルが真顔で言った。
「バカ」
レイナは真っ赤になっていた。
秩序は回復した。あとはこの先、この住民たちがどこまで生き残れるかだ。機械都市でプログラムキーの暗号コードを手に入れるまで。
「暗号コードはなんとか俺が手に入れてくる。それまで何とか生きていてくれ」
ガニスは老人とテアを見ながら言った。気休めでも、なんでもよかった。
「暗号コードってなに?」
テリルが聞いてきた。
「ここのジェネレーターを動かすプログラムキーだ」
「ジェネシスシステムを動かしたいのか?」
無邪気な顔をしたテリルがそう聞いた。何か知っているのか?
「なんだそのジェネシスって?」
「創世記にちなんだ環境循環システムだ。太陽発電により水や食料を生産できる。もちろん空気の浄化も、だ」
「なんだか夢のようだな。そんなもんどこにあるんだよ」
「そこにあるだろ」
「この鉄くずが、か?こんなもん動くのかよ」
「まあ、動かすからまて」
「おい、おまえ、もしかして?」
テリルがそのプログラムキーだというのか?こんな子が?いやこいつは本当に人間なのか?だがテリルはトコトコと鉄の塊のような装置の一端にあるぶ厚いカバーに近づくと、それは自動で開き、そして中のいくつものライトが点灯した。やがて大きな稼働音が町中に響き渡りはじめた。
プラントの上空に大きなパネルが開いた。電力が隅々にまでいきわたってくる。さび付いたパイプから水が噴き出してくる。システムが稼働し始めたのだ。
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