42  生存者

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42  生存者

どれだけ歩いたろう、やがて砂嵐になった。目の前が見えない。先行していたレイナとレナード大佐が古いシェルターを見つけた。 シャッターの壊れかかった半円のドーム。先の大戦で使われた市民用の核シェルターだった。 虫がいないか慎重に確かめる。放棄されてから時間はどのくらいたったのか、崩れ具合から10年以上前だと予想される。 「虫はいないようよ」 砂嵐を避け、ドームに入ったレイナが荷物を降ろす。ガニスも大佐もそうした。 「今日はここで休もう」 ガニスが疲れたように言った。もうみんな疲れていた。元気なのはテリルだけらしい。 「ちょっとあっち見てくる」 テリルは砂嵐のなかを飛び出していった。アトラスも一緒だ。 「あんまり遠くへ行っちゃだめよ。もうすぐ食事だからね」 「レイナ、それじゃ母親みたいだぜ」 「失礼ね、未婚の女つかまえて」 「しっ」 大佐が銃を構えている。ガニスもレイナも銃を構えた。どうやらシェルターの奥の瓦礫に何かいるらしい。 「そこに誰かいるのか?」 レナード大佐が静かに言った。驚かさない配慮だろう。ガニスとレイナはそれぞれ武器を構える。 返事はなかったが、がさりと動くものがある。虫?いや確かめたはずだ。やつらは独特な音波を出す。センサーが反応し、虫の居場所がある程度わかる。もっとも、地中にいる虫はわからないが。 「何か出てくるわ」 もそもそと出てきたのは子供だった。十歳前後の子供だ。やせていた。 「なんでこんなところに?なあ、こっちへおいで。水と、それと食べ物があるよ」 大佐が声をかけると、子供はよろよろと近づいてくる。いやどうしてこんなところに?家族は?ほかの大人は? 大佐が差し出した水のボトルの水を勢いよく飲む。そしてクッキーを食べ始める。 「お前、ここに住んでんのか?他の人間は?」 ガニスが矢継ぎ早にたずねる。子供は黙々と食べているだけだ。いまここでこんなものを抱えるのは正気の沙汰じゃない。とっとと家族なり仲間なりに返さないと。でなけりゃこっちが行動制限を受ける羽目になっちまう。ガニスは軍人らしくそう考えたのだ。 「ちっ、厄介なものを」 「そういうな、ガニス。一生懸命生きていたんだ。よく生きていたな、えらいぞ」 レイナが子供の頭をなでている。 「なんだか楽しそうだけど、お前らそいつから離れてくれない?」 テリルとアトラスがいつの間にか入り口に立っていた。ふたりの銃口は子供に、向いていた。
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