44  難民

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44  難民

外を見回っていたテリルがなにか見つけてきたようだ。皆が砂から目をかばいながらついていく。建物があった。崩れていない。しっかりした建物だ。鉄でできたドアがある。ガニスはドアを丹念に調べながらテリルにそう言った。 「鍵がかかっている。外せるか?」 「アトラス、焼き切れ」 バイオノイドがドアのカギを焼き切る。ドアが嫌な音を立てて開く。中は真っ暗だ。 「ガニス、照明を」 大佐が指示をだすと、ガニスは小さなトーチを取り出し火をつける。電気的な火花が散り、中の様子を揺らしながら照らす。廊下が続いているようだ。皆が中に入る。いつでも撃てるように銃を構えながら進む。 「部屋のようだ」 ガニスが皆に言う。ドアは開いているようだ。ゴトっと音がしてドアが開く。ガサガサっという音がした。何かいる。トーチをかざすと、人間が何人もいた。 「テリル、こいつらも寄生されてんのか?」 「いや、こいつらはただの人間だ」 中には男女合わせて20人くらいいた。 「お前らはここで暮らしているのか?」 ガニスが聞くと、一番年かさの多そうに見える男が答えた。 「俺たちは西から来た。最初は何千もいた。いまは百に満たない。ここのほかにも仲間がいる。隣の部屋だが、そいつらは病気にかかっている。もう持たん」 「見て来よう」 「やめておけ、ガニス。うつされたらことだ」 大佐が言った。 「アトラスに見に行かせる」 「頼む」 テリルに大佐が頭を下げた。アトラスが隣の部屋に行く。やがて戻ってくるとテリルに報告した。それは現状ではどうしよもないことだった。 「チョウチフス ペスト コレラ。アラユル デンセンビョウ」 ガニスはうなだれた。もう助からねえな、と。 「この中に医者はいる?」 テリルは聞いた。一番年かさが答えた。 「ワシントンで医者をやっていた。だが薬がなければどうしようもない」 「薬なら、ある」 テリルは外に出ていく。ガニスが後を追う。 「お前はついてくるな」 「なんでだよ。見られちゃいけねえもんでもあんのか?」 「そうだ。見られては困る」 「そういわれたらなおさら見たくなるじゃねえか」 「お前はどうしようもないな」 「生まれつきでね」 「まあいい」 「そうこなきゃ、な」 テリルについていく。しばらく歩くとピタッと止まる。 やがて低い音が空から聞こえてくる。見えてきた。大型のドローンだ。前に見たことがある。世界中でも、数機しかないはずだ。やがてそれは着陸した。 「ここで待ってろ。近づくな。攻撃されるぞ」 テリルはドローンのハッチを開け、中から大きな箱を取り出した。それぞれ3箱あった。やがてドローンは再び上空へと消えていった。 「これを持て」 「なんだこりゃあ?」 「薬と食料、あと水だ。気をつけて運べ。落とすなよ」 「へいへい」 ガニスとアトラスが箱を持った。テリルは相変わらず手ぶらだ。 「まったく」 しかしそれ以上ガニスには何も言えない。テリルが薬をくれたのだ。見ず知らずの人間に、だ。こいつはいったい何なのだろう。 建物に戻るとガニスは軽いめまいを覚えた。すぐに収まったが、いい気分ではなかった。
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