46  戦略空軍基地

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46  戦略空軍基地

ジープは深い渓谷に突き当たった。そこには橋もなければ渡れそうな浅瀬もなかった。迂回するには上流か下流。だが上流には山々がそびえたち、とても車では越えられそうもない。 「なら下流を迂回か…。こいつは難儀だな」 下流域は平地が続く。なだらかな丘、砂地、岩場、そして都市の廃墟。いやどれをとっても虫の領域だ。虫がうようよいるだろう。いくらテリルやヒューマノイドが無敵でも、すんなり通れるわけはない。ましてこっちは三人の人間がいる。ひとたまりもない。 「地図を見てもジープの燃料が手に入るところはない。あとは歩きだが、生きて先には俺たちは進めねえな…」 たとえ燃料が手に入ったとしても、虫の大群に襲われれば、おんぼろジープなどひとたまりもないだろう。 「大佐が答えを知ってるよ。もっともそれを大佐は言いたくない…いいえ、思い出したくないようだけど」 テリルはそう言った。大佐の顔色がみるみる変わった。 「どういうことです、大佐?」 「この子の前では隠しごともできんのか…。機密保持とかそういう言葉が馬鹿馬鹿しくなる」 そう言ってレナード大佐は山裾の、大きく開けた場所を指さした。 「あそこにサン=デュバンス=ロビンソン空軍基地があった。厳密に言うと戦略空軍基地だがな」 「それは壊滅前のアメリ=フレアシス連邦国軍の第8空軍…つまり戦略爆撃航空軍ですよね!」 ガニスが驚いたようにそう言った。レイナも軍人だからそれを知っている。崩壊前に、そのもととなった、核爆弾を世界中にまき散らした爆撃機の基地のひとつだ。それがこんなところにあったとは知らなかったが。 「崩壊前、わたしはここに配属されていたんだよ。人類をAIの支配から救うため、われわれはここから出撃した。わたしは攻撃指揮官として高度偵察作戦指揮機で『クロック』爆撃の命を受けていた。あとはみな知っている通り、爆撃機は崩壊の引き金になり、世界は破滅した。生きて帰還したのはわたしの機だけだった」 大佐がこの世界の崩壊の原因を作ったとはまったく驚くべきことだった。だが大佐を批判しようとはガニスもレイナも思わなかった。軍人として命令を受け、それを実行したに過ぎない大佐を、非難するいわれはまったくなかった。 「話は終わったか?そろそろお腹が減った。それに日も暮れる。ここでのんきに立ち話しているのは勝手だが、腹をすかせた夜行虫も出てくるぞ」 テリルはそう真顔で言った。たしかに日が暮れれば夜行性の虫たちがそこらから這い出てくるだろう。 「みな車に乗れ。基地に向かう」 そう大佐は言った。 「ですが、あんなところになにがあるんですか?ただ真っ平らなここですよ?もう基地なんかないじゃないですか」 ガニスの言う通り地表には何も見えない。建物の残骸さえないのだ。 「とくに作戦上隠匿性の必要ある戦略空軍の基地だ。そんなものが地表に堂々と展開しているなんてまさか思っていまい?そうだろう、中尉」 こんなところに世界を終わらしたクソ忌々しい連中がいたなんて。ガニスは口の中にたまった唾液と砂礫を吐き出しながら、重い足をジープに向けた。
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