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49 墓地
いくつもの通路と格納庫。そして作戦室や兵員宿舎。何もかもそろっていた。そろっていないのはそれを使う人間たちだった。
「ねえガニス、そこらに転がってるのって…」
薄暗い通路や格納庫、いや施設全体の床や壁、そして通路にそれはあった。
「ああ、死体だな。かなり年月が経ってるから、もうミイラ化しちまってる。骨だけになってるのもいるがな」
「これって虫のしわざ?それともヒューマノイドが…」
「それは違うだろう」
大佐が転がっている死体を調べながらそう言った。
「じゃあなんで…」
「殺されたのもいるし、自殺したのもいるみたいだな。理由はわからんが、ずいぶんむかしにここは墓場になったようだな」
「戦略空軍墓地、かよ。つまらねえダジャレ」
「不謹慎よ、ガニス」
だがなんとなく想像は出来た。アメリ=フレアシス連邦国が崩壊し、彼らの祖国が消えてしまったとき、どれだけここのやつらは絶望したか。世界が滅び、そして外には虫と人殺しロボット。ここに閉じ込められたやつらの心には、恐怖と絶望と、そして狂気が渦巻いてしまったのだ。
「だが生きてるやつもいる。そうですよね、大佐」
「ああ、恐らく将軍は生き残った。ほかにどれくらいいるかは知れんが」
「それはどこに?」
大佐はじっと闇を見ながら、唸るように言った。
「基地の最奥。中央指令センターだ。そこは独立した施設で、途方もない隔壁で遮断されている。さっきの鉄の扉とは大違いだ」
大佐は、もうバイオノイドの力ではどうにもならないと言っている。
「ですが、さっきテリルがここのAIをハッキングして、もう無力化されているんじゃありませんか?」
「確かに基地防衛のシステムは無力化された。だがAIはそれだけじゃない。中央指令室には特別なAIが備えられている。お嬢さんでも無理だ」
まったく何のためにこんなもんを作り出したのか、ガニスは怒りしか湧いてこなかった。
「どうでもいいけどあっちから水の匂いがするよ。早くいこう」
「おいテリル!ちょっと待てよ」
「一番はわたし。へへーん」
「ったく…」
こんな辛気臭いところでまったくあのガキは平然と…いや楽しそうに。いったいなんだってんだ。
そこは地下の最下層のようだった。幾重にも気密ドアがあり、その壁も扉も半端なく分厚く、そしてそこはすぐに何か判断できた。
「おいちょっと待てテリル!ここはヤバい!」
ガニスがあわててテリルを止めようとし、すぐにアトラスが立ちふさがった。
「何で止めるのよ」
ガニスの腕はバイオノイドにつかまれ、さらにのど元にガレットが突きつけられている。
「いや、おいこのロボットくんに言え。俺は何もテリルに危害をくわえようとして手を出したんじゃない、って。危険を知らせようとしただけだ」
「殺すなアトラス、違うって」
「シカシおじょうサマ、コイツハ、テヲダソウト」
ロボットが口答えをしている。そんなロボットなんているのか?
「だから危険なんだ、そこは。いいか、そこは原子炉だ。防護服もなしにそんなところに入ったら死ぬぞ」
「このくらいの放射能は平気だが」
「いやマジで嘘でしょう?」
生身の人間があり得ない。そのドアを開けた途端、放射能どころか強い中性子線で体が瞬時に溶けるだろう。いや、じゃあ水の匂いって、原子炉の冷却水のことだったのか?
「あたしやアトラスは平気だぞ」
「いや、俺や大佐やレイナは死んじまう。何せ普通の人間だからな。そこを開けたら一発で」
「ふーん、ずいぶん虚弱な体だな」
「いやおまえと一緒にすんなよ」
とりあえず原子炉の冷却水はあきらめてもらった。大佐が、もっとおいしい水や食料があるところに案内すると言ったのだ。
「それクッキーがいっぱいってこと?」
こいつ本当になに食って生きてきたんだ?いつかこのアトラスっていうロボットに聞いてみようとガニスは思った。
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