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不意をつかれた男は驚き、一瞬の隙を見せた。風見はその隙を逃さず、すかさず懐に飛び込んで鳩尾に一撃を入れた。その後すかさず顎を狙ってもう一撃を決め、男の最後の抵抗で風見に飛びかかって来たところを利用して背負い投げで地面に叩き伏せた。男はピクピクと痙攣している。
「逃げるために俺を足止めしよう、などと思った時点で勝負はついている。」
風見はようやく周りを見渡す余裕ができ、顔を上げるとたくさんの人々が風見の周りにはいた。それは規制線を突破した野次馬たちが"ニンジャ"や犯罪現場を一目見ようと群がっているからであった。あと一歩遅れていたら、ここにいる野次馬たちは死に馬と化していたのである。
風見は先ほど橋の上で見せたような大ジャンプをしてビルの屋上へと飛び、素早くビルからビルへと移動していって野次馬たちを撒いた。細道に戻って元のように着替えると、また走り出して学校へと戻って行くのだった。
学校に着き、教室へと戻ると既に授業は大詰めだった。これだけ運動したにもかかわらず、風見の息は切れていなかった。
「お前また腹痛かぁ?早く席に着けぇ。」
語尾を伸ばす独特な喋り方をする数学教師に言われたまま席へと戻った。席に着いた途端、隣の席の男子(もちろんこの教室、この学校の生徒全員は男子なのだが)が話しかけてきた。
「お前いっつも腹痛長いよな?そんなに出すもんあるのか?ほんとは授業サボりたいだけだろ?」
一見すると非常識……しなくても非常識なこの発言が許されるのは、この学校が男子校であるという点に尽きるだろう。そんな共学適性のなさそうな隣の同級生は黒瀬悠斗であった。成績は中の下、顔面は中の上という黒瀬は、軽音楽部でベースを弾いている。塾で彼女を作ろうと努力しているそうだが、結果はまだ着いてきてはいないようだった。
「バカ、俺はお前と違って真面目なんだよ。授業サボったりしない。今日だってトイレの中では授業を受けたくて受けたくてたまらなかったんだぞ。」
「言ってろよ、俺は信じないからな。」
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