待ち人と泥棒

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待ち人と泥棒

 今日、我が家に泥棒がやってくる。私はもどかしくも、ただそれを待つしかできずにいる。断ることなどできないらしい。妻に至ってはお茶菓子まで用意してすっかり歓迎するつもりでいた。   「まったく、そんな怖い顔をしないでくださいな」    腕組みをしてじっとテーブルの上の湯呑みを見たまま動かない私を妻が苦笑いしている。ううん、と唸るように返事をしたが、どうしても表情は動かせない。口角はぎゅっと下がり、眉間には深いしわが刻まれているのだろう。指摘されてもびくともしないそれに、妻はもう一度笑ってから台所に向かって行った。昼食まで共にするという話だったから、その準備でもしているのだろう。まったく、泥棒のくせに図々しいことこの上ない。    苛々と待ちながらの時間は遅々として進まなかった。何度も時計に目をやり、その度に止まっているような針に苛立つ。手持ち無沙汰にテレビをつけてみても、内容は入ってこない。画面の中で大げさに笑っている芸能人にも苛立ってしまい、結局すぐに消してしまった。    ぷつっと暗くなったテレビを見てため息をつく。静かな部屋にその音が重苦しく響いたとき、聞き慣れた音で玄関の扉が開くのが耳に届いた。   ……来たか。    重苦しく思う私とは反対に、明るい声が続く。   「ただいま、お父さん、お母さん」    いつもなら逸る気持ちを押し隠してゆっくりと玄関に向かうところだが、今日はできなかった。ただ耳を澄ませて、私はじっと座ったままでいた。
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