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「鬼灯、僕も載せてよ!」
「やーだよー、鬼灯の上は僕が独り占めー」
射手独楽神社の境内には双子らしき子どもの姿。
一人は石像に乗って笑っている。もう一人が駄々をこねて泣いている。
「てかさ、狛犬に乗るとか、バチが当たるぜ」
小太郎が呆れているが、子供たちは聞く耳を持たない。仕方なく小太郎は泣いている子を持ち上げて、吽の石像に乗せてやった。
背の低い愛らしい女は見て見ぬふりをしつつ、箒で落ち葉を掃いている。
「おーい、決まったぞ」
石段の下から男の声が聞こえてきた。その男は息を切らせて登りきると、コピー用紙を女に見せた。
「ジュリアの言っていたことが現実になるんだ」
そして本殿を見上げた。
「青年会が動いてくれるってさ。村おこしにちょうどいいって」
クピードーが本殿から出て来るが、もうこの二人には見えていないらしい。それでも二人はここにクピードーがいることを信じていた。
それを聞いた鬼灯と小太郎が「祭り、祭り」とはしゃぎながら走り回る。
「この辺りは花火を上げる土地が無いから、無理なんだけどさ、募金を集めて神輿を献上しようかって話も出ているんだ」
「よかったね。クピト様」
見えない神様に話しかける。
それを聴いているクピードーの慈悲深い微笑みに、プシュケーは瞠目した。
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「こんなの見せられたら、まだまだ帰って来いって言えないじゃない」
プシュケーがため息を吐く。
「なら、お前から会いに行けばいいだろ」
「……そんなの嫌よ」
「ほんっと、かわいくねえな」
「ほっといてよ」
チラリ、再び水鏡を一瞥すると、侘しそうに笑った。
「どうせクピードーが幸せなのは知っているからいいの。そんなことよりも、ほら、続きをしましょう」
アポローに濃厚なキスを強請ると、未来を映した水鏡に蓋をかぶせて隠してしまった。
――了
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