六幕 契約終了

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「夢を見た?」  佑さんが言ったから、私は首を横に振った。夢なんかじゃないって。 「俺さ、クピトの手の中で踊らされているような気がしてさ、だからつい、離れようって言ってしまった。……けど、ずっと後悔していた。君からは連絡が来ないし、やっぱりジュリアはクピトに奪わちまったんだって、諦めかけ」  言い終わる前に、佑さんの口をキスで塞ぐ。  私の心の揺れとか、九比斗様の気持ちも知って……それでもこうして追いかけて来てくれた人の心を疑うほど、私は鈍感じゃないもん。  唇を離したら、佑さんがちょっとびっくりした顔で私を見ていた。 「だって、クピト様にはお嫁さんがいるのよ」 「え、まじか」  目をぱちくりとさせる。 「遠距離恋愛中とか?」 「ううん、別居中だって」  思わず笑ってしまった。  佑さんが私の手を引いて、暗くなった石段を慎重に降りる。 「なあ、さっきの話」 「え?」 「この神社でさ、いつか小さくてもいいからさ……」 「……」 「本当に祭りをしような」 「…………うん! 絶対に」  私たちはもう一度、階段の上を見上げた。  私の願い事は叶った。私の恋愛ドラマはたくさんの涙や笑いやハラハラの後、ハッピーエンドで幕を閉じた。 (九比斗様……もう、お話をしたり、あの羽に触れたり、そういうのはできないのかな)  ちょっとしんみりした気分になっちゃったから、誰もいなくなった鳥居に向かって、私は大きく手を振った。 ◇◇◇  儚い人間の生と情愛を、ジュリアには謳歌してほしいと望む。永遠を約束された神の世界など、人として生まれた者には不幸なだけだ。 「主様、ただいま~」 「これ、お土産っす」  狛犬たちが祭りから帰ってきた。手に綿菓子とりんご飴を持って。 「楽しかったか?」 「うん、産土神様がよろしく言うてはった」 「そうか、良かったな」  お祭り――当てにしないで待っていよう。 「なに、主様、楽しいことでもあった?」 「ああ」  ――いつか必ず……  何だか楽しくなって、僕は知らずのうちに笑っていた。
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