31人が本棚に入れています
本棚に追加
「夢を見た?」
佑さんが言ったから、私は首を横に振った。夢なんかじゃないって。
「俺さ、クピトの手の中で踊らされているような気がしてさ、だからつい、離れようって言ってしまった。……けど、ずっと後悔していた。君からは連絡が来ないし、やっぱりジュリアはクピトに奪わちまったんだって、諦めかけ」
言い終わる前に、佑さんの口をキスで塞ぐ。
私の心の揺れとか、九比斗様の気持ちも知って……それでもこうして追いかけて来てくれた人の心を疑うほど、私は鈍感じゃないもん。
唇を離したら、佑さんがちょっとびっくりした顔で私を見ていた。
「だって、クピト様にはお嫁さんがいるのよ」
「え、まじか」
目をぱちくりとさせる。
「遠距離恋愛中とか?」
「ううん、別居中だって」
思わず笑ってしまった。
佑さんが私の手を引いて、暗くなった石段を慎重に降りる。
「なあ、さっきの話」
「え?」
「この神社でさ、いつか小さくてもいいからさ……」
「……」
「本当に祭りをしような」
「…………うん! 絶対に」
私たちはもう一度、階段の上を見上げた。
私の願い事は叶った。私の恋愛ドラマはたくさんの涙や笑いやハラハラの後、ハッピーエンドで幕を閉じた。
(九比斗様……もう、お話をしたり、あの羽に触れたり、そういうのはできないのかな)
ちょっとしんみりした気分になっちゃったから、誰もいなくなった鳥居に向かって、私は大きく手を振った。
◇◇◇
儚い人間の生と情愛を、ジュリアには謳歌してほしいと望む。永遠を約束された神の世界など、人として生まれた者には不幸なだけだ。
「主様、ただいま~」
「これ、お土産っす」
狛犬たちが祭りから帰ってきた。手に綿菓子とりんご飴を持って。
「楽しかったか?」
「うん、産土神様がよろしく言うてはった」
「そうか、良かったな」
お祭り――当てにしないで待っていよう。
「なに、主様、楽しいことでもあった?」
「ああ」
――いつか必ず……
何だか楽しくなって、僕は知らずのうちに笑っていた。
最初のコメントを投稿しよう!