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勇気を振り絞って誘ってみた。送ってくれたお礼に夕飯くらい御馳走したいと思っただけ。
(し、下心なんてないんだから! ぜったい!)
「あ、あの……東京から母が来ているんですけど、多分ご飯を作ってくれているから、食べて帰りませんか」
男の人を自分の部屋に誘うという初めての体験に、掌は汗で湿っている。
「え、きゅ、急に、お母さんに挨拶とか」
佑さんがすごく焦っている。そりゃそうだよね、やっとのことで「好きです」って告白したばっかなのに、図々しかったかな。
「いや、うん。こういうの、早い方がいいから。うん、行こうか」
どういうのが早い方がいいのかよくわかんないけど、来てくれるのは嬉しい。
――うん、何ならママはさっさと追い返しちゃってもいいかな……
「ただいまぁ」
家に人を呼ぶのは初めてだった。それこそ小学生の時以来。女子の友人ですら、家に呼んだことなどなかった。
嬉しくて大きな声で言ったら、もっと元気な声が返ってきた。
「おかえり! ジュリア」
「遅かったやん、佑とエッチなことしてたんちゃうかー」
「姐さんもすみに置けねえですね」
「ほら、今日はプシュケーが来ていてね、ブルゴーニュ産のワインを土産に置いていったんだ」
佑さんが硬直している。
ていうか、さっきあんな風にドラマチックな別れをしたっていうのに、しらっとした顔でくつろいでいないでよ!
「ママは?」
「あ、置手紙があるで」
鬼灯からメモ用紙を手渡された。
――友達って言ってたけど、相手は彼氏よね? ママは明日仕事だから帰ります カレーは四人分くらい作ってます(大きなハートマークが二つ)
「はあー」
大きなため息とともに、座り込んだ。
「てめえ、ジュリアの家にこれからも入り浸る気じゃねえよな」
「神様に『てめえ』って、どういう口の利き方だろうね」
「うるせえ。俺はあんたをライバルとしか見てねえからな」
バチバチと火花を散らす二人の間に割って入った。
「二人とも、仲良くしてよ! 将来、佑さんはあの神社の神主さんになってくれるかも知れないんだから」
「妹が婿養子をもらってくれる方に賭けるけどな」
「それでも、あの神社でもお祭りをしてくれるんでしょ」
私たちの話を聞いていた鬼灯が目を輝かした。
「なあ、それほんまか?」
「本当よ。今はまだ無理だけど、いつか必ず叶えてあげるから」
「良かったなあ、主様」
「んで、恋を叶えるグッズとか売ったら、めちゃ儲かりまっせ」
「守銭奴なの? 小太郎君は」
「おいおい、泣くほどのことかよ」
佑さんが自分のハンカチを九比斗様に差し出した。だって、九比斗様ったら、閉じていた翼を震わせて号泣していたんだもの。
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