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一幕 恋の神様
「ジュリちゃん、あなた、休みなのにまた家にいるのぉ?」
ママからの電話の始まりはいつも同じ台詞。
「うるさいなあ、ほっといてよ」
そして私の返事もワンパターン。
これ以外に答えようがない悲しさを、ママにもわかってもらいたいと思うわ。
なのにしっかり、傷口に塩を塗りたくられる。
「そう言えばこの間、クラス会に行ってきたんでしょ。好きだった男子に出会ったとか、声を掛けられたりしなかったの?『ジュリちゃん、きれいになったね』なんて言われて」
「ないない。あるわけないじゃん」
むしろ「つまんない」と言われてしまったくらいだ。
「じゃあ、暇だったらおばあちゃんの顔でも見に行ってあげてよ。ママたち忙しくってしばらくそっちに行けそうにないから」
「ハイハイ。わかったから。特に用もないならもう切るね」
わざと素っ気ない態度で返すと、ママの返事を待たずに通話を終わらせた。
実家の通勤圏内に就職できなかった私が、父の幼馴染の紹介で田舎の服飾メーカーにデザイナーのアシスタントで採用されたのがつい先月のこと。
今は駅からバスで十分ちょっとという新興住宅街の古ーい賃貸マンションで独り暮らしをしている。
引っ込み思案な私と違って社交的なママは、何かと娘のことを気にして再々電話やメッセージを寄こすのだが、正直鬱陶しい。
「いったい誰に似たのかしら」――がママの口癖だった。
三人姉妹の長女の私。妹たちはそろってママに似て姦しい。
――いったい誰に似たのか知りたいのはこっちよ。
いつだって言いたい言葉は飲み込んできた。誰のせいとかじゃない。そういう性質なのだと思う。
いつだって他人の目が気になって
いつだって自分の言葉に自信がなくて
そのくせ独りは大嫌いで
学校とか会社とか、そういう集団だったら何となくこっそり紛れ込めちゃう気がするのだけれど……。でもそれも、私の手を取って引っ張ってくれる友人や先輩がいるから。
――自分にもう少し勇気があったら……
なーんて、そういうことを空想したところで、何も変わらない。変わらないなら受け入れるしかないじゃん。
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