買い物デートです。セレブってすごいですね

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 それからはなんてことないドライブだった。  離れていた時間が長いためなのか、会話は尽きなかった。近況の報告などは楽しく、澪は浮足立つような気分で氷雨の話を聞く。 (……こういうの、楽しい)  ずっと幼少期から夢見ていた関係に、なれたのだ。その真実に胸の奥が満たされていく。あの頃よりも何処となく大人びた氷雨の横顔を見つめていると、澪は自身の顔がカーっと熱くなるのを自覚した。……やっぱり、好きだ。長年封じ込めてきた気持ちは、もう封じ込めることが出来ない。それほどまでに、あの決意はあっさりと決壊した。  その後、澪が氷雨の顔を見つめていれば、不意に車が止まる。そして、氷雨は「ここだ」と言いながら窓の外を指さす。  そこにあったのは……ザ・高級ブティックと言った風貌の店だった。モノクロの外観が余計に高級感を醸し出し、一般庶民には縁遠い店だとすぐにわかる。 (い、いや、ここに私が入るの⁉)  先ほどまでの浮足立つような気持ちは一瞬にして沈んだ。こんなザ・高級ブティックなど澪は今まで一度も入ったことがない。その所為で硬直していれば、氷雨は駐車場に車を止めると「行くぞ」と言ってシートベルトを外してしまう。 「……澪?」  が、いつまで経っても澪が動かないことを怪訝に思ってか、氷雨はそう声をかけてくる。それにハッとし、澪は「……私、場違いじゃない?」と問いかけていた。 「……はぁ?」 「だ、だって、こんないかにもな高級ブティック……私みたいな一般庶民には縁遠いっていうか……」  ゆるゆると首を横に振りながらそう言えば、氷雨は「別にいいだろ」と言いながら車の扉を開ける。 「つーかさ、澪は俺と本気で付き合ってるんだろ?」  そして、彼はそんなことを突拍子もなく告げてきた。……確かに、澪は氷雨との結婚を本気で考えている。そういう意味を込めて頷けば、彼は不敵に笑いながら「だったら、慣れろ」と言ってくる。 「俺も初めはあんまり慣れなかったけれどさ。……いつかは慣れる。それに、俺と結婚するんだったら、自然と慣れてもらわなきゃ困る」  淡々とそう言われ、澪はこくんと首を縦に振った。そう言われてしまえば、ぐうの音も出ない。澪は氷雨のことが本気で好きだし、結婚したいと思っている。ならば、彼の言う通り慣れるしかないのだ。 「じゃ、行くぞ」  澪が意を決したのを見てか、氷雨はそう声をかけてきた。だからこそ、澪は「……頑張れ、私」と小さく声を上げて車を降りた。
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