買い物デートです。セレブってすごいですね

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 しかし、その決意はあっけなく決壊する。ブティックの中に入れば、その上品さにいっそめまいがしてしまいそうだった。ふらりとふらつけば、氷雨が「何してんだ」と小さく小言をぶつけてくる。だが、その声音は何処となく優しい。 「いらっしゃいませ。ご予約されていた榛名様ですね?」 「あぁ」  上品な女性店員と氷雨が滑らかに会話をする。それに何処となく気持ちをもやもやとさせていれば、氷雨は「澪」といきなり澪に視線を向けてきた。 「ど、どうしたの……?」  いきなり名前を呼ばれ驚いていれば、彼は「ドレス、選べ」と端的に告げてくる。 「……えぇっと」  確かにパーティー用のドレスだということはわかる。しかし、ドレスと一言に言ってもいろいろなタイプがあるのだ。自分にどういうタイプが似合うかはわからないし、そんな今までドレスを着る機会などなかったのだ。もう何もかもがわからない。 「ご、ごめん。私……何も、わからない」  こんなことを言ったら幻滅されてしまうかもしれない。そんな心配を抱えながらも、澪は恐る恐るといった風にそう告げる。すると、氷雨は「そうか」とだけ端的に言葉を告げ、女性店員を呼ぶ。 「こいつに似合うドレスをいくつかピックアップしてくれ」  そして、何でもない風にそう告げた。そうすれば、女性店員は「かしこまりました」と静かに頷き颯爽とドレスが展示されているフロアへと移動する。 「……ごめんね、迷惑かけて」  小さくそう謝罪をすれば、氷雨は特に気にした風もなく「そう言ってくれる方が、助かる」と言いながら大きくあくびをする。 「知ったかぶりされるのが一番迷惑だしな。……それに、こういうところではその道の奴に任せた方が良いんだよ」  謝罪する澪のことを責めるでもなく、氷雨はそう言ってくる。その言葉に澪はホッと息を吐いた。それと同時に……ぽかぽかと温かくなる心。 (やっぱり、氷雨君ってなんだかんだ言っても優しいんだよね……)  その傲慢な態度から、少し勘違いされやすい男性だとは思う。が、澪からすれば氷雨は誰よりも優しくて誰よりも素敵な男性なのだ。
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