買い物デートです。セレブってすごいですね

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(っていうか、今更だけれど私今、榛名様って呼ばれていたわよね……?)  不意にそんなことを思いだし、顔がカーっと熱くなる。氷雨が榛名の名前で予約していたのだから、榛名と呼ばれるのは当然である。が、澪からすればあまりにも非現実的なことだった。まるで、氷雨と結婚したみたいだ。そう思い乙女チックな考えになってしまうが、頭の上から氷雨の「おい」という声に現実に引き戻される。 「……な、なに?」  恐る恐る顔を上げて問いかければ、彼は「パーティーの日も、実家まで迎えに行くからな」と言う。 「……えぇっと」 「それとも、お前の住んでいる場所まで迎えに行ってやろうか?」  その傲慢な発言に苛立ちは感じない。ただ、澪は焦る。……澪の住んでいる場所はお世辞にも豪華とは言えない。セキュリティこそしっかりしているものの、氷雨のような御曹司からすればボロボロに見えるかもしれない。……そんな場所に、氷雨が来るなんて無理だ。 「う、ううん、実家でいいよ。……私、そっちに行っているから」 「……そうか」  何だろうか。何処となく氷雨がへこんでいるように見える。  もしかしたら、そこまで信頼されていないと彼は受け取ったのかもしれない。実際は、澪が氷雨を信頼していないのではなく、彼に自分のスペースを見られたくないだけである。 (……でも、いつかは、いつかわね!)  いつかは、氷雨を家に上げてもいい……と思えるようになりたい。  そんなことを思っていれば、女性店員がきれいに包んだドレスとアクセサリー一式を持ってくる。 「……また、来る」  見送りに対し氷雨は端的にそう告げ、澪がシートベルトをつけたのを見て車を走らせ始めた。ちらりと店の方を見れば、女性店員が深々と頭を下げている。……なんというか、洗練されたような仕草だ。
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