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そして、時間は流れパーティー当日。氷雨に連れられやってきたのは、高級ホテルだった。
先週氷雨に買ってもらったパーティードレスに身を包み、澪は氷雨と腕を組んで歩く。周囲の視線が何処となく痛いような気がするが、気のせいだと言い聞かせた。
「今回のパーティーはレセプションパーティーってやつだ」
「……えぇっと……き、聞き覚えがないです……」
「まぁ、簡単に言えばビジネスのためのパーティーだ。立食形式だし、そこまでかしこまったものじゃない」
そう言われても、澪からすればかしこまったことであることに間違いはない。思わず引きつる頬をぐっと元に戻し、澪は氷雨に連れられて歩く。
パーティーに参加している女性は皆が皆美しく、とても気品に溢れている。それを見つめていると、澪はやはり自分は場違いだと思ってしまう。俯いてしまおうかと思ったが、それでは氷雨が恥をかく。そう思いなおし、澪は必死に前を向いた。
すると、ホールの入り口で壮年の男性が出迎えてくれる。彼は「榛名君じゃないか」と言いながらにっこりとした笑みを浮かべる。
「そちらの女性はキミの婚約者かい?」
「……まだ、そういうわけでは」
「そうかそうか。キミにもいい女性がいたんだね」
何処となくおせっかいな言葉だが、彼に悪意がないことはすぐにわかる。それほどまでに、彼は朗らかで人当たりのいい男性だった。
そして、その男性の視線は澪に移動する。にこやかな表情の裏には、まるで吟味するような鋭い視線が隠されている。それに身を縮こませていれば、彼は「私は葉山というものだ」と自己紹介をしてくれた。
「つい先日父から葉山グループの社長の立場を継いだんだ」
「そ、そうなのですか……」
「いや、私に子供はいないのだけれど、ちょうどキミと似たような年齢の姪がいてね」
朗らかに笑いながら葉山と名乗った男性はぺらぺらとしゃべり始める。どうやら、彼はおしゃべりなようだ。氷雨は早々に飽きてしまったのか視線を彷徨わせていたが、澪は真剣に彼の話を聞く。しっかりと話を聞いていないと、悪いかと思ってしまったためだ。
「おぉっと、もうこんな時間なんだね。……どうぞ、中へ」
その後、葉山は近くにいた秘書に耳打ちされハッとしたかと思えば澪たちをホールの中へ入るようにと促してくれる。そのため、澪は葉山に軽く頭を下げてホールの中に入った。
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