めでたしめでたしって、こういうことなのかもしれませんね

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「おい、澪」  うつらうつらする意識の中、肩を軽く揺らされて澪は目覚める。  あの後、澪は夏蓮の長話に付き合い、すっかり疲れ切ってしまった。どうやら彼女はおじ同様話の長い人種だったらしく、澪にあれこれ聞いてきたのだ。が、幸運だったのは彼女が社交界のいろはを教えてくれたことだろうか。もしも、本当に氷雨と生涯を共にするのならばそれは必要な知識だった。 「……あ、氷雨君」  ぼんやりとする中端正な顔が見えて、澪はふんわりと笑う。そうすれば、氷雨が一度だけぐっと息を呑んだのが澪にも分かった。  ふんわりと笑う澪は大層妖艶に見える。澪は元々の顔立ちが良い。さらに、今日は張り切ってメイクをしたこともありいつも以上に魅力的だ。 「……もうすぐ、家に着くぞ」  そう声をかけられ、澪はリムジンのカーテンをこっそりと開けて外を見つめる。確かに、外は見慣れた景色に移り変わっている。それに気が付き意識をはっきりとさせようとするものの、頭は疲れからかぼんやりとしている。 「ねぇ、氷雨君」  今ならば、自分の気持ちを素直に告げられる気がする。  そんな風に思い、澪は氷雨の肩に頭を預けた。すると、氷雨が「……どうした」と問いかけてくる。その声音はとても優しく、嫌悪しているわけではない。ただあえて言うのならば……そうだ。戸惑っているのだ。 「あのね、氷雨君。……私、ずっと氷雨君のこと好きだったの」  彼の肩に頭を押し付けながら澪はゆっくりとそう告げる。 「私、ずっと氷雨君の彼女になりたかった。……だけど、私たち七つも年が離れてた。だから、氷雨君の彼女にはなれないなって、いつの間にか思ってたの」 「……澪」 「今思えば、私が歴代の彼氏にフラれたのって自業自得なんだよ。心の奥底に別の人がいるって気が付かれていたから、フラれたんだ」  かといって、浮気を容認するわけではない。せめてしっかりと別れを告げてからふってほしかったという気持ちはある。むしろ、それが全てだ。
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