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私が悪いんだ
しとしとと頬に伝う十月の冷たい雨。別れ話をしてフラレた。ダメージなど微塵もない。私から声をかけたといっても好きだった訳じゃない。気持ちのないお付き合いなど、簡単に破綻する。分かっている。分かっているけど、あの子に男を近づけたくない。
「最低!」
あの子は私にそう叫んだ。一度や二度じゃない。あの子に好意を寄せている男に片っ端から声をかけて。
付き合った人数は多いが、私はまだ恋をしていない。本当に好きな人を眺めるだけだ。彼女が誰のものでもないのを確認して安心するのだ。
大学受験を失敗した私はコンビニ勤めのフリーターだ。この近辺にあるコンビニはここだけだから、彼女も否応なしにここを利用する。その上、私がいるレジを分かりやすく避ける。谷崎花織。それが彼女の名前。もとは高校の同級生だが、私たちの仲はよろしくない。理由は私自身もよく理解している。彼女の彼氏候補を私が横からかっさらうからだ。彼女の身体に異性が触れるのを想像するだけで怖気が走る。
彼女は孤高で美しくなければならない。それを守るためなら私はなんだってする。私の恋が叶わないように彼女に向かう恋も叶わせやしない。
レジカウンターから彼女を眺めながら昔を思い出す。最初は高校生の頃だった。
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