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「じゃ、帰ろっか」
と言った耀くんが、僕の肩を少し抱き寄せた。
「うん」
僕は耀くんのシャツを握った。
すれ違う人たちが、ちらっと僕たちを見るのが気になるにはなる。
しょうがない。だって耀くんが格好いいから。
耀くんは僕も見られてるって言うけど、それはちょっと分かんない。
そんなことを考えながら、耀くん家のマンションまで歩いた。
エレベーターに乗ったらもう当たり前のように指を絡めて手を繋いだ。
自分で手を組んだ時とは違う指の開き方で、耀くんの手の大きさを感じる。
エレベーターのガラス窓で降りる階に人がいるのが見えて手を離した。
…残念
耀くんが会釈するのに倣って僕も軽く頭を下げた。
「碧がうちに来るって言ってくれてよかった」
家の鍵を開けながら耀くんが言った。耀くんはドアを開けて僕の肩を軽く押して中に入った。
そして僕をぎゅうっと抱きしめた。
抱きしめたまま、2つの鍵をガチャガチャッと閉める。
「俺、碧に言わないといけないことがあって」
そう言ってまた僕を両腕で抱きしめた。こんなに抱きしめられてたら、心臓が跳ねてしまって話が聞けなくなっちゃう。
「でも先にちょっとキスさせて…」
少し甘えるような声で言った耀くんが僕の頬を撫でた。
顎に指をかけられて耀くんを見上げる。
こんな格好いい耀くんが、僕に「キスさせて」なんて言ってることが未だに信じられない。
信じられないけど、耀くんは僕のものだし、僕は耀くんのものだ。
唇を塞がれる幸福感がじんわりと脳を溶かす。
ほんのこの前まで、キスの気持ちよさなんて知らなかった。
人の舌がこんなに熱いことも知らなかった。
僕を作り変えてしまった耀くんが、ひとしきり僕の口の中を舐め回して、ゆっくりと唇を離した。
目を開けると、歪んだ視界に玄関灯のオレンジの光を受けた耀くんが見えた。
「キスした後、碧の目はいつも潤んでて可愛い」
そんなことを言って、耀くんは僕の目元にキスをした。
おいで、と手を取られて玄関から上がって、手を繋いだままリビングに入ってソファに座るように促された。
「コーヒー入れるからちょっと待ってて」
そう言いながらネクタイを解く様がめちゃくちゃ格好いい。
その姿に思わず見惚れた。
「どしたの?」
耀くんが笑いながら訊く。
ううん、と首を振ったけど、たぶん僕の顔は赤い。
「惚れ直した?」
耀くんが冗談で言ってるのは解ってるけど、僕は頷いた。
耀くんの切長の目が、少し見開かれる。
そして照れ臭そうに笑った。
耀くんの照れ笑い、大好き。
格好いいにかわいいが混ざって、すごく魅力的だ。
それに耀くんがこんな顔をするのは、たぶん僕の前だけだから。
恋人の、自分にだけ見せる一面ほど甘いものはないと思う。
惚れ直すもなにも、僕はずっと現在進行形で耀くんに溺れている。
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