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予想通り、一応セットしておいた目覚ましのアラームより早く目が覚めた。
夢は見たような気もするし、見なかった気もする。
僕が休みなのに早起きすることにもう慣れたのか、母はただ「おはよう」って言った。
「碧、今日は陽菜と出かけるんだっけ?」
「ううん。別々」
そう応えながらトーストにマーマレードを塗った。
「帰りは夕方?」
「うん、それぐらい」
余計なことを言ってしまわないように気を付けながらトーストを齧った。
「お母さんは、明日お父さんとデートだから、今日中に家の用事終わらせとかないと」
「いつもありがとね、お母さん」
ケーキを作る道具とかはうちにあるし、集まりやすいから誕生日パーティーはいつもうちでやることになってる。その日は父と母は丸一日『デート』に出かけてくれる。
「いいのよ。こんなことでもないと、お父さんと2人で出かけることないしね」
明日は映画に行くのよー、と母が笑っていた。
ゆっくり進む時計を見ながら出かける準備をしているとスマホが鳴って、耀くんからのメッセージが届いた。
ーーおはよう、碧。そろそろ家に着くよ
わーい!
ーーーおはよ、耀くん。じゃあ出るね
トートバッグを肩にかけて部屋を出たところに、姉も部屋のドアを開けた。
「うわ、もう出るの?早起きなカップルねー」
「お、お姉ちゃん、おはよ…。てゆーか恥ずかしいんだけど、それ」
姉がふふんと笑って僕の方に近付いてくる。そして手を伸ばして僕の頬を撫でた。
「うん。昨日冷やしてクリーム塗っといて良かったわね。ちょっと赤みが残ってるけど。触っても痛くないでしょ?」
「あ、うん。そういえば」
気にもせず顔洗った。
「じゃ、撫でられても大丈夫ね。あたしたちに感謝するのよー」
「お、お姉ちゃんっ」
ぶわっと顔に熱が集まる。姉はヘヘヘーっと笑っていた。
もうっ、お姉ちゃんてばっ
顔が赤いのが分かるから、母に見られないようにキッチンの前を足早に通り過ぎながら「行ってきます」と言った。
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
と母が声をかけてくれて「うん」と応えてスニーカーを履きながらドアを開けた。
あ
「おはよう、碧」
ちょうど耀くんが門から入って来るところだった。
「おはよう、耀くん。また焼けたね」
顔も、捲った袖から見える腕も、綺麗な小麦色になってきてて格好いい。
つま先をトントンしながら外に出て、ドアに鍵をかけて振り返ると、すぐ近くまで耀くんが来ていた。
「碧も焼けた?ちょっと赤くなってる」
「うん。昨日はね、真っ赤になっちゃってたけど、えりちゃんが冷やしてくれて、お姉ちゃんにべったりクリーム塗られた」
そっか、と言いながら耀くんが僕の鼻を指で撫でた。
「じゃあ、行こっか。碧」
「うんっ」
耀くんに肩を抱かれて歩き始めた。
みんなに言われた言葉が、頭の中を横切っていく。
僕は耀くんの腰に腕を回してシャツを掴んだ。
「この、くんって引っ張られる感じがいいんだよなあ」
耀くんがそう言って笑った。
お姉ちゃんの言った通りだった。
図書館に着いて、今回も一緒に本を探した。
耀くんの借りる本は割とジャンルがバラバラだ。
「もしイマイチでもタダだからいいよな、図書館は」
なんてことを言って笑う。
「うん。前評判で面白そうって思っても、自分に合わない本ってあるもんね」
「そうそう。なんとなく借りたのがすごい面白い時もあるし」
コソコソと話しながら本の林の中を歩いて、それぞれ4冊の本を選んだ。
これが「また2週間後にここに来ようね」の約束。
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