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図書館を出て、お店の多いエリアに向けて歩き出した。
「碧、何食べたい?」
「何がいいかなー。このへん何があったっけ?」
そんな話をしながら歩くのも楽しい。
人目が気にならないわけじゃないけど、楽しむことを優先することにする。
気にしてたらキリがない。
「あ、ねぇ耀くん。ケバブどう?」
赤いTシャツの陽気な外国人のお兄さんが、道行く人に「サービスするよー」と声をかけている。
「いいね。外で食べると余計美味そうだ」
「でしょ?」
ということでケバブを買って、途中で飲み物も買って公園に向かった。
木製のベンチに並んで座ると風が心地よかった。
「空が高くなったな」
白い雲がふわふわと浮かぶ青い空を見上げて耀くんが言う。
「そうだね」
色々ありすぎて、気付いたら秋になってた。こんなにぎっしりと詰まった夏は今までなかったと思う。
「碧、あったかいうちに食べよ」
「うん」
もらってきた木製のフォークでケバブの上の方からチキンを慎重に刺した。サービスはありがたいけど食べ切れるのかな、これ。
「耀くん、千切りキャベツが暴れるんだけど」
「ははは、確かに」
結局全部は食べ切れなくて耀くんに食べてもらった。
僕はまた、お約束のようにソースを顔に付けてしまって、耀くんが笑いながら拭ってくれた。
「依人に感謝だなあ」
と耀くんがしみじみと言った。
「うん、そうだね…」
依くんが、飲み物買って行くよって言ってくれなかったら、僕は今日耀くんに会えなかった。
「碧、今日も親は家にいるんだけど、うち来てくれる?」
キスがしたいんだよ、と近くに人はいないけど、少し潜めた声で耀くんが僕に言う。
胸がぎゅっとなったあと、とくとくと早鐘を打ち始めた。
「…うん、耀くん」
僕も耀くんとキスがしたい。
その気持ちを込めて耀くんを見つめた。
「ありがとう、碧」
耀くんが大きな手で僕の頭を撫でた。少しゆっくりめに指が髪を梳いていく。
気持ちいい
「…碧、そんな顔してると、ここでキスしちゃうよ?」
「え…っ」
驚いて耀くんを見返すと、やや意地の悪い顔で笑っていた。
「碧は時々、俺の理性を試しにくるよね」
「そ、そんなつもり、ないけど…」
「自覚がないあたりが、ほんと厄介なんだよなあ」
しかもめちゃくちゃ可愛いしさ、と耀くんが言う。
僕は何て応えたらいいか分からなくて俯いた。
「ほら、碧。帰るよ」
と、耀くんに手を引かれて立ち上がった。ゴミはいつの間にか片付けてくれてた。
耀くんが僕の肩に腕を回すのと同時くらいに、僕は耀くんの腰に腕を回して、またシャツをぎゅっと握った。
耀くんが僕を見下ろして嬉しそうに笑う。
時々視線を感じたけど、まあいいかと思った。
みんな、気にしなくていい、みたいな感じのこと言ってたし。
だって耀くんは僕のだし。
そう思って、耀くんのシャツを握り直した。
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