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「耀ちゃーん、碧ー、入ってきていいよー」  と姉の声が響いて、僕たちはリビングに向かった。    耀くんがリビングに入ると、パーンとクラッカーが鳴って、 「お誕生日おめでとう」  と、みんなが言った。 「ありがとう」と言った耀くんが、部屋をぐるりと見渡した。 「今回も綺麗だね。ありがとう、みんな」 「色を揃えるのがね、今回はちょっと大変だったの」 「そうそう。やっぱり可愛いのが多いから」 「カッコよくしたかったから、耀くんのは」  ねー、と昨日買い物に行った女の子たちが笑う。 「ケーキ、今回はね、モンブランとガトーショコラ!ロウソク、火付けよっか」  モンブランには長いロウソクが1本と短いのが7本。ガトーショコラには1と7のロウソクが立てられてる。それに依くんが火を付けた。  みんなでハッピーバースデーを歌って、耀くんがロウソクを吹き消した。どっちのケーキも一息でパッと消えた。 「写真撮ろ、写真。耀ちゃんこっち向いて」 「あ、そうだ耀兄。この花持って。母さんに送んなきゃなんないんだった」  はいはい、とチョコレートコスモスを生けた小振の花瓶を持った耀くんを、啓吾だけじゃなくて、ちかちゃんやえりちゃんも撮ってる。 「サンキュー耀兄。母さん喜ぶわー。たぶんしばらくは待ち受けコレだな」 「うわ、それはちょっと恥ずかしいな」 「安心して、耀兄。うちの母さんの待ち受け、いっつも耀兄だから」  啓吾があははと笑って、耀くんがマジか、と苦笑いした。 「ねー、みんな食べよー。お腹空いたー」 「あ、ドレッシング出すね」 「コブサラダ崩すのもったいないね」 「これね、ほとんど碧が切ったんだよ、キレイだよね」  さっちゃんが耀くんにそう言って、耀くんが「へー」と僕を見た。  なんか恥ずかしい  写真も動画もいっぱい撮りながら、何回もジュースで乾杯とかして、やっぱり今回も山盛り入ってたポテトを、雪崩れないようにみんなで気を付けながら摘んだ。 「ケーキ切っちゃう?」 「モンブラン、栗は全員分ないよー。どうする?」 「耀と女子でいいんじゃね?」 「じゃあそうするねー。あ、でもモンブランに決めたの碧だから、碧にも栗付けるねー。あたしはいいや」  姉がそう言いながら、先に上にのってる栗をお皿に取ってケーキを切っていく。ガトーショコラはちかちゃんが切ってる。 「12等分て切るのほんと大変だよな」  光くんがケーキを切ってる姉とちかちゃんを見ながら言った。 「そう、大変。薄いから倒れるし。でもモンブランもガトーショコラも両方食べたいじゃない」  姉が真剣な顔で半分に切ったケーキを3分の1に切っていく。 「そうそう。1回やったよね、どっちか選んで6分の1。でも結局途中でトレードして両方食べてたよね、みんな」 「あったあった、そんなこと」  みんなが、うんうんて頷いて笑ってる。  確かその時は、お店で買ったチョコレートケーキと手作りのいちごのケーキだった気がする。  僕はいちごのケーキにしたけど、やっぱりチョコケーキも食べたくなって、耀くんにねだって交換してもらった。  耀くんは僕のケーキに残ってたいちごを「苺は碧が食べな」って言ってくれた。耀くんのケーキはクリームのいっぱいのったところだったのに、惜しげもなく交換してくれた。  半分を3分の1に切って、更にそれを半分に切る。ナイフに付いたクリームをフォークでこそげ落としながら切っていく。 「やっぱケーキサーバー買うべきかなあ?」 「毎回言ってない?陽菜」 「言ってる気がする」  姉があははと笑いながら、切ったケーキをナイフとフォークで支えながらお皿に移した。お皿にはモンブランの栗と『HAPPY BIRTHDAY』と書かれたチョコのプレートものってる。 「これ、耀ちゃんのね」  と言いながら、姉がちかちゃんの前にお皿を移動した。 「じゃーこれ、耀くんの。ちょっと大きく切れたの」  ちかちゃんが、やっぱりナイフとフォークでケーキをお皿に移しながら言った。  そして「はい」と耀くんにお皿を渡した。 「ありがと、ちかちゃん」  耀くんがそう言って受け取るのを、みんな少し緊張した面持ちで見ていた。  僕も、見ていた。  ちかちゃんは、えへへと笑った。
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