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 姉が次のお皿をちかちゃんの前に置いた。 「あ、じゃあこの、さっきの耀くんのが大きくなった分小さくなったの、碧にあげるー」  と、ちかちゃんがにやりと笑いながら言ってお皿にのせた。 「ちかちゃん、それわざとでしょ」  って、えりちゃんが言って「えへ」って、ちかちゃんが笑った。  そして、 「でもほら、この2つはペアだから」  って言って、僕は唇を噛んだ。鼻の奥がツンとしてくる。  少し潤んだ視界で、姉とちかちゃんが順番にケーキをお皿にのせていく。  耀くんが僕の頭をさらりと撫でた。 「じゃあ、光ちゃんと華ちゃんのもペアにしなきゃね」  と姉が言う。啓吾が、 「3分の1の時が区切り?」  と訊いて、姉とちかちゃんが頷く。 「3分の1を半分こにするからそこがペア。はい、これ華ちゃん。栗のってるの」  光ちゃんは栗なしー、と笑って言いながら、姉がちかちゃんの方にお皿をスライドさせた。 「どうする?この中で2カップルできちゃったよ」 「どうするって言っても、ねぇ?」 「そう言えば依ちゃん、あの狙ってた子、どうなったの?」 「訊くな訊くな。なんもねーから毎日ここに来てんだろー?」 「それは、俺のことがなくても?」  そう言った耀くんと依くんの視線が合った。  耀くんの少し申し訳なさそうな顔を、依くんが真顔で見返した。  それから、フンッと鼻で息をして、 「関係ねーよ。ばーか」  と言った。 「夏休みのうちに色々誘ったりしてダメ出しされてんだよ、って言わすなっ」  少し頬を紅潮させた依くんが、眉間に皺を寄せて言う。 「そっかー。見る目ないっすね、その子」  と敬也が言って「だろー?」と依くんが敬也の肩にぐいっと腕を回した。  みんなにケーキが渡って、改めて「いただきます」と言って、ケーキにフォークを刺した。 「ガトーショコラ、大成功じゃない?」 「うん、すごい美味しー」 「おれの誕生日もこれにして」 「おっけー」  ほうじ茶がふわっと香るモンブランもすごく美味しい。 「モンブランは碧が選んだの?」  と耀くんが訊く。 「うん。秋だし栗かなーって」 「美味いよね。ほうじ茶が入ってるところも」  そう言いながら耀くんがチョコのプレートを半分に割った。そしてその割った半分を僕のお皿にのせてくれた。 「ありがと、耀くん」  へへっと笑った僕を見ながら、耀くんがチョコプレートを齧った。  指に付いたチョコを舐めた耀くんの舌を、つい見てしまった。  耀くんが僕を流し見た。  どくん、と心臓が跳ねた。周りのざわざわが少し遠くなる。  速くなってきてしまった鼓動を持て余しながら、モンブランを食べ終えた。 「碧、栗とチョコ、先にどっち食べるの?」  お皿に残った2つを見て耀くんが訊いた。 「栗、かなぁ?」  なんで?と思いながら応えると、お皿に耀くんの手が伸びてきて栗を摘んだ。  僕は栗を目で追って、それから耀くんを見た。  あーん、と口を開ける。  栗と一緒に耀くんの指が唇に触れた。その指を、耀くんがぺろりと舐めた。  この栗は、今まで食べた中で一番甘い  ごくりと飲み込んで、もう一度耀くんを見つめる。
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