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「…耀くん、チョコも…」
「いいよ」
耀くんの長い指が、板状のチョコレートを摘んで僕の方に向けた。
「一口は無理かな?」
と訊かれて、ううん、と首を振った。
すぅっと、口の中に押し込まれたチョコが舌の上にのる。やっぱり口からはみ出てしまって右手で押さえた。指先でじわりとチョコが溶けた。
口の中にチョコを全部入れられたところで、右手を耀くんに取られた。
指先に付いたチョコを舐められる。
温かく湿った舌の感触にぞくりとした。
僕の手を取ったまま、耀くんが僕の方を見た。
「…チョコ、口にも付いてるね」
そう言った耀くんが、ふっと顔を寄せてきて僕は目を閉じた。
唇をぺろりと舐められる。それから軽く、ちゅっと吸われた。
カシャンと音がしてびくっとした。
「あ…わ、わり…。フォーク落としちった…」
へへっと啓吾が笑った。
ぶわっと体温が上がる。
…しまった…っ!
慌てて俯いた僕の顔を隠すように、耀くんが僕の頭を抱き寄せた。
「完全に2人の世界、だったな」
「私たちの存在忘れてたでしょ」
「…でも、すっごい綺麗だった。…くやしーけど」
この声はちかちゃん。
「碧があそこですっと目を閉じちゃうってことは、普段からあんなことしてるってこと…だよね?」
と華ちゃんが言う。
「光輝はしないの?」
逆になんで、ぐらいの調子で耀くんが訊いた。
「や、やめろ。おれにふるなっ」
光くんの狼狽えた声。
「口に何か付いてるっていう可愛いシチュエーションで、何もしない方が俺的には不思議」
耀くんがそんなことを言いながら僕の頭を撫でた。
「耀ちゃんて…」
姉はそれ以上言葉が続かない。
「まあでも、外では指で拭ってやるくらいだよ?さっきは碧が可愛かったからつい、ね。家だし」
「いや、ちょっと待て。指で拭ってやるのも大概だぞ。お前その様子じゃ外でやんのも時間の問題じゃねーの?耀から見たらいつだって碧は可愛いんだろうが」
依くんの呆れた、っていうか、ちょっとお説教モードの声。
「あー…、そうだな。気を付ける。碧といる時に冷静さを欠いてる自覚はさすがにあるし」
ふっとため息をついて耀くんが自嘲気味に言った。
「分かってりゃ上等だ」
依くんがフンッと鼻で息をした。
「耀兄が冷静じゃなくなるってのが信じらんねぇんだよな。いっつも誰よりも冷静だったじゃん」
「碧だってこの前、びっくりするぐらい取り乱してたしね」
「恋愛って、すごいね」
萌ちゃんの言葉で、みんなが息をのんだ。
僕はようやく、耀くんの肩口から頭を離した。
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