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放課後うちに来た友達は、たいてい6時くらいには帰っていく。
今日もみんなもう帰った。そろそろ母と姉が帰ってくる頃だなーと思いながら制服を着替えた。今、姉は帰りが遅いから、駅で母と待ち合わせて帰ってくる。
今日の晩ご飯何にするのかな、と思いながら、水切りカゴの中の朝使った食器を一旦食器棚に戻していると、ガチャガチャと玄関の方で音がした。
あ、帰ってきた。…ん?
なんか、お母さんが1人ですごい喋りながら入ってきてる?電話かな。
「え、で、麻理、沙紀ちゃんは大丈夫なの?あ、そう。え?え?でも、まあ、それは…。え、でも3人、でしょ?あ、ちょっと待って」
電話をしながら入ってきた母が「ただいま」と言った。姉も母の後ろから入ってきた。
麻理さんは母の妹で、沙紀ちゃんはその娘さんだ。沙紀ちゃんは姉と同い年で背格好も似ている。麻理おばさんたち家族は隣の市に住んでいる。
「今ね、麻理から電話なんだけど、沙紀ちゃんが体育ですごい捻挫しちゃったんだって。それでね、今週末に行くはずだった家族旅行、代わりに行ってくれないかって…」
「え?」
僕と姉は同時に母を見た。
「なんかね、ホテルのプリンセスプランっていうの一泊で予約してて、ドレスとか着て写真撮るんだって。もう今からじゃキャンセル料がもったいないから、陽菜に行ってほしいらしいんだけど。でも旅行、大人2人と高校生1人っていうプランなのよ」
「お母さん、それ土日?」
姉が訊く。
「そう。ほら、週末3連休じゃない。それでみんなで行く予定だったみたいなんだけど…。でも3人じゃねぇ」
そう言った母が、スマホを耳に当てようとした。たぶん断ろうとしてる。
僕はその母の手を止めた。
「お母さん、僕、留守番するから行ってきなよ」
どくどくと心臓が鳴り始める。
姉がこっちをじっと見てくるのが気になる。
僕がどうして留守番を申し出たのかなんて、姉には全部分かってると思うと恥ずかしい。
「でも碧、1人で一晩お留守番なんて…」
母が心配気な顔で言う。
「大丈夫よ、お母さん。碧なんでもできるし一晩くらい。それにあたし、ドレス着てみたい」
「お姉ちゃん…」
姉が僕ににやっと笑いかけた。
「そう?そっかぁ、そうね。じゃ、行こっか。麻理ごめん、お待たせ。行くわ、3人で。うん」
母が電話の向こうの麻理おばさんにそう告げたのを、僕は半ば呆然と聞いていた。
姉が僕をぎゅっと抱きしめた。
「お留守番、楽しみね、碧」
僕の耳元で弾むようにそう言って、姉がくすっと笑った。
「…あ…」
今何時?時計は6時20分を示している。
耀くんは6時半くらいに駅に着くって言ってた。駅からうちまでは15分。
待てない、待てない。早く会いたい
外はもう暗い。でも…っ
「僕、ちょっと出てくるっ」
我慢できない。感情のコントロールが、やっぱりできない。
スマホだけ掴んでスニーカーを履いた。
玄関に置いてある鍵を持って外に出る。大急ぎで鍵をかけて駅に向かって走った。
駅に近付くにつれて街灯が増えてくる。
走ったからいつもよりも早く駅に着いた。
改札につながる階段に見慣れた姿を見つけた。
走ってきた僕を見つけた耀くんが急いで階段を下りてくる。
「碧?どうしたの?」
「よ、耀くんっ、耀くん、あのね…っ」
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